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第5章 感覚と知覚 ・ レッスン5-2目はどうやって光を「見る」に変えるのか。視覚のしくみ
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- 光が目に入ってから脳に届くまでの経路を説明できる
- 網膜の桿体細胞と錐体細胞の違いを説明できる
- 暗闇に目が慣れる「暗順応」の仕組みを説明できる
要点
- 視覚とは、目に入った光を、網膜が電気信号に変え、脳がその信号を処理して「見える」という体験を作り出す仕組みのことです。
- 光は角膜・瞳孔・水晶体を通って網膜に届き、網膜にある桿体細胞と錐体細胞が、光を神経の電気信号に変えます。
- この信号は視神経を通り、左右の視野の情報が交差する視交叉を経て、脳の視床にある外側膝状体、さらに視覚野へと伝えられます。
01光が網膜に届くまで。角膜・瞳孔・水晶体
目に入った光は、角膜で大きく曲げられ、瞳孔を通る量を虹彩が調節し、水晶体でさらに焦点を合わされて、網膜に像を結びます。
目に入った光は、まず角膜という透明な膜を通ります。角膜は、光を大きく曲げる働きをしています。次に、虹彩という部分が、瞳孔という穴の大きさを変えて、目に入る光の量を調節します。
瞳孔を通った光は、水晶体というレンズを通ります。水晶体は、厚みを変えることで、近くのものにも遠くのものにも焦点を合わせられるようにしています。こうして光は、目の奥にある網膜という膜に像を結びます。
ここまでの仕組みは、カメラが光を集めてセンサーに像を結ぶ仕組みと似ています。しかし網膜に届いた時点では、まだ「見える」という体験は起きていません。光を神経の信号に変える次の段階が必要です。
02網膜で光を信号に変える。桿体細胞と錐体細胞
網膜には、暗い場所で働く桿体細胞と、色と細かい形を見分ける錐体細胞があり、2022年の総説によると、それぞれおよそ9200万個と460万個あります。
網膜には、光を神経の電気信号に変える2種類の細胞があります。暗い場所で働き、明暗を感じる桿体細胞と、色や細かい形を見分ける錐体細胞です。2022年に学術誌Frontiers in Cell and Developmental Biologyに発表された総説によると、人の網膜にはおよそ9200万個の桿体細胞と、およそ460万個の錐体細胞があると見積もられています。
錐体細胞は、網膜の中心にある「中心窩」という部分に集中しています。同じ総説によると、中心窩には桿体細胞がまったくなく、網膜全体の面積のわずか0.02%にあたるこの部分に、錐体細胞がもっとも高い密度で集まっています。そのため、見たいものの中心に視線を向けると、色や細部をもっともくわしく見られます。
錐体細胞には、短い波長(青)、中くらいの波長(緑)、長い波長(赤)に、それぞれ最も反応する3種類があります。この3種類の組み合わせで、人は色を見分けています。
03暗い場所に目が慣れる。暗順応の仕組み
暗順応とは、暗い場所にいるうちに目が慣れて、見えやすくなる現象のことです。2022年の研究では、錐体細胞は30秒ほどで、桿体細胞は30分ほどで回復することが示されています。
明るい場所から暗い場所に移ると、最初は何も見えませんが、時間がたつにつれて、周りが見えるようになります。この現象を暗順応と呼びます。
2022年に学術誌The Journal of Physiologyに発表された研究では、目の反応を精密に測定し、強い光を当てたあと、錐体細胞の反応は30秒ほどで元の暗い場所での感度に戻る一方、桿体細胞の反応は、最初の5分間はほとんど検出されず、元の感度に戻るまでに30分ほどかかることを示しました。
桿体細胞の回復に時間がかかるのは、光を感じるために使われる物質が、強い光で大きく変化したあと、元の状態に戻るのに時間がかかるためです。暗い映画館や夜道に入ったとき、しばらくしてから周りが見えやすくなるのは、この桿体細胞の回復を待っているためです。
04脳に届いた信号は、どう処理されるか
網膜からの信号は視神経を通り、視交叉で一部が入れ替わったあと、視床の外側膝状体を経て視覚野に届き、そこでは特定の向きの線に反応する神経細胞が見つかっています。
網膜で作られた電気信号は、視神経を通って脳に向かいます。2016年の総説によると、左右の目からの視神経は、脳の中で視交叉と呼ばれる場所で一部が交差します。目の内側(鼻側)からの線維は反対側の脳へ、外側(耳側)からの線維は同じ側の脳へ向かうため、交差したあとは、それぞれの脳の半球が視野の反対側の情報を受け取る形になります。
交差したあとの信号は、視床にある外側膝状体という部分を経て、脳の後ろ側にある視覚野に届きます。
視覚野に届いた信号がどう処理されるかは、1962年のヒューベルとウィーゼルによる猫の研究が出発点になっています。2012年の総説によると、視覚野の神経細胞は、網膜や外側膝状体の細胞と違い、特定の向きの線や輪郭に強く反応する性質を持っています。この発見から、脳は「点」の情報ではなく「向きのある線」の情報を手がかりに、ものの形を組み立てていると考えられています。次のレッスンでは、この組み立ての仕組みを、ゲシュタルト心理学の視点から見ていきます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
角膜とは、目の前面にある透明な膜のことで、光を大きく曲げて目の中に導く働きをします。
水晶体とは、目の中にあるレンズのことで、厚みを変えて網膜に焦点を合わせる働きをします。
網膜とは、目の奥にある膜のことで、光を神経の電気信号に変える桿体細胞と錐体細胞が並んでいます。
桿体細胞とは、網膜にある細胞の一種で、暗い場所での明暗を感じ取る働きをします。
錐体細胞とは、網膜にある細胞の一種で、色や細かい形を見分ける働きをします。
暗順応とは、暗い場所にいるうちに目が慣れて、見えやすくなる現象のことです。
出典
- Hussey, K. A., Hadyniak, S. E., & Johnston, R. J. Jr. (2022). Patterning and Development of Photoreceptors in the Human Retina. Frontiers in Cell and Developmental Biology, 10:878350.
- Jiang, X., & Mahroo, O. A. (2022). Human retinal dark adaptation tracked in vivo with the electroretinogram. The Journal of Physiology, 600(21), 4603-4621.
- Ajina, S., & Bridge, H. (2016). Blindsight and Unconscious Vision: What They Teach Us about the Human Visual System. The Neuroscientist, 23(5), 529-541.
- Priebe, N. J., & Ferster, D. (2012). Mechanisms of Neuronal Computation in Mammalian Visual Cortex. Neuron, 75(2), 194-208.
LESSON 5-2 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. 目に入った光が、網膜に像を結ぶまでに通る順番として正しいものはどれですか。
- 水晶体→角膜→瞳孔
- 角膜→瞳孔→水晶体
- 瞳孔→水晶体→角膜
答えを見る
正解: 2. 角膜→瞳孔→水晶体
光は角膜→瞳孔→水晶体の順に通り、網膜に像を結びます。
Q2. 網膜の桿体細胞と錐体細胞について、正しいものはどれですか。
- 桿体細胞は色を見分け、錐体細胞は暗い場所で働く
- 桿体細胞は暗い場所で働き、錐体細胞は色や細かい形を見分ける
- 桿体細胞と錐体細胞は、まったく同じ働きをする
答えを見る
正解: 2. 桿体細胞は暗い場所で働き、錐体細胞は色や細かい形を見分ける
桿体細胞は暗い場所での明暗を、錐体細胞は色と細部を担当します。
Q3. 暗順応について、2022年の研究が示したこととして正しいものはどれですか。
- 錐体細胞も桿体細胞も、同じ速さで回復する
- 錐体細胞は30秒ほど、桿体細胞は30分ほどで回復する
- 桿体細胞は暗順応をまったく起こさない
答えを見る
正解: 2. 錐体細胞は30秒ほど、桿体細胞は30分ほどで回復する
錐体細胞の反応は30秒ほどで、桿体細胞の反応は30分ほどで、元の感度に戻ることが示されました。
レッスン5-2はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。