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第5章 感覚と知覚 ・ レッスン5-4錯視はなぜ起こるのか。知覚のしくみからわかること
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- ミュラー・リヤー錯視とポンゾ錯視を、具体例とともに説明できる
- 大きさの恒常性とは何かを説明できる
- グレゴリーの「大きさの恒常性の誤った適用」という説明を理解する
要点
- 錯視とは、実際の刺激とは違う大きさや形に見えてしまう現象のことです。
- ミュラー・リヤー錯視(1889年)やポンゾ錯視(1911年)は、どちらも「大きさの恒常性」という仕組みから説明されています。
- 心理学者グレゴリーは、奥行きの手がかりに反応して脳が大きさを調整する仕組みが、奥行きのない図形に誤って働くことで、錯視が生まれると説明しました。
01錯視とは何か。ミュラー・リヤー錯視
ミュラー・リヤーは1889年、矢羽根の向きだけで、同じ長さの線が違う長さに見える錯視を発表しました。
錯視とは、実際の刺激の大きさや形とは違うものとして見えてしまう現象のことです。心理学には、昔から研究されてきた、いくつもの有名な錯視があります。
その代表のひとつが、1889年にミュラー・リヤーが発表した錯視です。2013年の学術誌Frontiers in Human Neuroscienceの論文でも紹介されているとおり、2本の同じ長さの線の両端に、内側を向く矢羽根と外側を向く矢羽根をそれぞれつけると、同じ長さなのに、一方が短く、もう一方が長く見えます。
線そのものの長さは変わっていないのに、矢羽根の向きだけで長さの見え方が変わります。この錯視は、単なる目の錯覚ではなく、脳が「奥行き」の手がかりを読み取る仕組みと関係していると考えられています。
02大きさの恒常性。遠くのものも、同じ大きさに見える仕組み
大きさの恒常性とは、距離が変わって網膜に映る像の大きさが変わっても、同じ大きさのものとして知覚する働きのことです。
同じ人が近くにいても遠くにいても、わたしたちはその人を「同じ大きさ」として感じます。実際には、遠くにいるときのほうが、網膜に映る像ははるかに小さいにもかかわらずです。この働きを大きさの恒常性と呼びます。
2016年に学術誌PLOS ONEに発表された論文によると、大きさの恒常性とは、網膜に映る像の大きさが、見ている距離の影響を受けて変わっても、知覚される大きさが安定して保たれる現象のことです。脳は、奥行きの手がかりをもとに距離を推測し、その推測に合わせて見かけの大きさを調整しています。
この調整の仕組みがあるおかげで、わたしたちは物の本当の大きさを、距離に関係なく、だいたい正しく把握できます。
03グレゴリーの説明。大きさの恒常性が「誤って」働く
心理学者グレゴリーは、奥行きの手がかりに反応して大きさを調整する仕組みが、奥行きのない図形に誤って働くことで、錯視が生まれると説明しました。
ミュラー・リヤー錯視やポンゾ錯視を、大きさの恒常性から説明する考え方を提案したのが、心理学者リチャード・グレゴリーです。同じ2016年のPLOS ONE論文によると、この「大きさの恒常性の誤った適用」理論は、近くのものは小さく、遠くのものは大きく見えるように、脳が奥行きのある3次元の場面で大きさを一定に保とうとする調整だと考えます。
この調整の仕組みは本来、奥行きのある実際の場面のために働くものです。しかし、紙の上に描かれた平面の図形でも、奥行きを連想させる線(遠近法の手がかり)が含まれていると、脳は同じ調整をしてしまいます。
ポンゾ錯視では、2本の線が奥に向かって狭まっていく図形(線路や道のように見える図形)の上に、同じ長さの横線を2本置きます。1911年にポンゾが発表したこの錯視では、奥(狭まった側)に近い横線のほうが、長く見えます。脳が、狭まった図形を「奥行きのある風景」として読み取り、奥にあるはずの線を、大きさの恒常性の仕組みで大きく見積もってしまうためだと説明されています。
04錯視からわかること
錯視は、脳が目の誤作動ではなく、ふだん役立っている「奥行きから大きさを推測する」仕組みを、特殊な場面で働かせた結果として起こります。
錯視は、目が壊れているから起こるのではありません。むしろ、ふだんは正しく働いている「奥行きの手がかりから大きさを推測する」仕組みが、だまし絵のような特殊な状況で働いた結果として起こります。
この章で見てきた感覚・知覚・体制化・錯視の流れは、いずれも共通する考え方を示しています。脳は、目に入った情報をそのまま映しているのではなく、過去の経験にもとづいて、情報を解釈し、組み立てているということです。
次の章では、この「経験にもとづいて情報を処理する」という考え方を、学習の仕組みとして学んでいきます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
錯視とは、実際の刺激の大きさや形とは違うものとして見えてしまう現象のことです。
ミュラー・リヤー錯視とは、同じ長さの線に、内側または外側を向く矢羽根をつけると、長さが違って見える錯視のことです。
ポンゾ錯視とは、奥に向かって狭まる図形の上に同じ長さの線を置くと、奥側の線が長く見える錯視のことです。
大きさの恒常性とは、距離が変わって網膜に映る像の大きさが変わっても、同じ大きさのものとして知覚する働きのことです。
大きさの恒常性の誤った適用とは、奥行きを調整する仕組みが、奥行きのない図形に誤って働くことで錯視が生まれるという、グレゴリーの説明のことです。
出典
- Rennig, J., Karnath, H.-O., & Huberle, E. (2013). The role of size constancy for the integration of local elements into a global shape. Frontiers in Human Neuroscience, 7:342.
- Qian, J., Liu, S., & Lei, Q. (2016). Illusory Distance Modulates Perceived Size of Afterimage despite the Disappearance of Depth Cues. PLoS One, 11(7), e0159228.
LESSON 5-4 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. ミュラー・リヤー錯視について、正しいものはどれですか。
- 線の長さそのものが実際に変わっている
- 矢羽根の向きだけで、同じ長さの線の見え方が変わる
- 色の違いによって起こる錯視である
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正解: 2. 矢羽根の向きだけで、同じ長さの線の見え方が変わる
線の長さは同じでも、矢羽根の向きによって長さの見え方が変わります。
Q2. 大きさの恒常性とは何ですか。
- 距離によって網膜像が変わっても、同じ大きさとして知覚する働き
- 暗い場所で目が慣れる働き
- 色を3種類の錐体細胞で見分ける働き
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正解: 1. 距離によって網膜像が変わっても、同じ大きさとして知覚する働き
大きさの恒常性は、距離が変わっても、ものを同じ大きさとして知覚する働きです。
Q3. グレゴリーの「大きさの恒常性の誤った適用」理論が説明する内容はどれですか。
- 目のレンズが物理的に歪んでいること
- 奥行きを調整する仕組みが、奥行きのない図形に誤って働くこと
- 脳が錯視を見るとき、必ず正しい大きさに修正すること
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正解: 2. 奥行きを調整する仕組みが、奥行きのない図形に誤って働くこと
奥行きの手がかりに応じて大きさを調整する仕組みが、奥行きのない図形にも働いてしまうことで、錯視が生まれると説明されます。
レッスン5-4はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。