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第11章 パーソナリティ ・ レッスン11-5行動を決めるのは性格か状況か。person-situation debate
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- person-situation debateとは、どのような論争か説明できる
- 1人の人の行動が、状況によってどの程度変わるかを、研究データで説明できる
- 状況の『強さ』によって、性格が行動を予測する力がどう変わるかを説明できる
要点
- person-situation debateとは、行動を決めるのは、安定した性格(特性)か、その場の状況か、という心理学の論争のことです。
- 2015年の研究では、1人の人の外向的な行動のばらつきのうち57〜78%が、状況による個人内の変動でした。
- 一方、同じ研究では、各人の行動の平均的な型は、別の機会どうしでも高い相関(r=.66〜.81)で安定していました。
01性格と状況、どちらが行動を決めるのか
person-situation debateとは、行動を決めるのは、安定した性格(特性)か、その場の状況か、という心理学の論争のことです。
ある人がいつも社交的だとしても、本当にどんな場面でも同じように社交的に振る舞うのでしょうか。2015年に学術誌Journal of Personality and Social Psychologyに発表された、フリーソン(Fleeson)とロー(Law)の論文は、この問いについて、「行動の一貫性は、研究者が予想していたよりも低く、個々の行動どうしの相関係数は.1から.3程度だった(Mischel, 1968)」という、1968年のミシェル(Mischel)の指摘を紹介しています。
この指摘は、性格(特性)が、どんな場面でも一貫して行動を決めるという考え方に疑問を投げかけ、「行動を決めるのは性格か、状況か」という、person-situation debate(人と状況の論争)と呼ばれる長い論争のきっかけになりました。
フリーソンとローの論文は、この論争に対して、97人の対象者と183人の観察者による、最大20回の実験室セッションのデータを使い、新しい視点を示しています。次の節から、その内容を見ていきます。
02同じ人でも、状況によって行動は大きく変わる
フリーソンとローの2015年の研究では、1人の人の外向的な行動のばらつきのうち、78%が状況による個人内の変動でした。
フリーソンとローの論文では、97人の対象者が、最大20回、1時間ほどの実験室セッションに参加し、そのたびに本人による自己報告と、183人の観察者による評定(合計3492件の自己報告と4838件の観察者報告)を集めています。
同じ論文によると、ビッグファイブの特性ごとに、1人の人の行動のばらつきのうち、どれくらいが「状況によるその都度の変動(個人内変動)」によるものかを調べた結果、外向性78%、協調性60%、勤勉性73%、情緒安定性57%、知性66%でした。
つまり、「外向的な人」であっても、場面によっては内向的に振る舞うことが多くあり、その人の行動のばらつきの半分から8割近くは、性格そのものではなく、その場の状況によって生まれていることになります。
03それでも、人によって「行動の平均的な型」は安定している
同じ研究では、各人の行動の平均的な型(分布の平均)は、前半10回と後半10回を比べても、r=.66から.81という高い相関で安定していました。
フリーソンとローの論文は、20回のセッションを前半10回と後半10回に分け、それぞれの期間で、1人の人の行動の平均的な型(たとえば、20回のうちどれくらい社交的に振る舞う傾向があるか)を比較しています。
同じ論文によると、この平均的な型の安定性(相関係数)は、外向性.67、協調性.78、勤勉性.66、情緒安定性.81、知性.70と、いずれも統計的に意味のある高い値でした(p<.001)。
この結果は、1回ごとの行動は状況によって大きく変わるとしても、多くの機会にわたる行動の平均的な傾向は、その人らしい、安定した特徴として現れることを示しています。フリーソンとローの論文は、特性を「その人が実際にとる行動の分布」として捉えることで、状況による変動と、性格の安定性を、矛盾なく説明しようとしています。
04状況の「強さ」によっても、性格の影響力は変わる
状況が行動を強く制約する職業では、性格の特性は、職務成績をあまり予測しませんでした。
2017年に学術誌Frontiers in Psychologyに発表された、アライベック(Alaybek)らの論文は、2009年に発表されたメイヤー(Meyer)らのメタ分析を引用し、「勤勉性という性格の特性と職務成績との関連は、(核燃料設備の運転技術者のような)状況の制約が強い職業の方が、状況の制約が弱い職業よりも弱かった」と述べています。
同じ論文によると、このメタ分析では、ビッグファイブの特性すべてについて、状況の制約が強い職業ほど、特性が職務成績を予測する力が弱くなる傾向が見られたとされています。
ここまでの内容をまとめると、person-situation debateは、「性格か状況か」のどちらか一方が正しいという結論にはなりませんでした。1回ごとの行動は状況に強く左右されますが、多くの機会にわたる行動の平均的な傾向には、その人らしい安定した性格が表れ、さらに、状況が行動をどれだけ強く制約するかによって、性格の影響力の大きさも変わる、という形で理解されています。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
person-situation debateとは、行動を決めるのは、安定した性格(特性)か、その場の状況か、という心理学の論争のことです。
個人内変動とは、1人の人の行動が、状況やタイミングによって、その都度どれくらい変化するかを示す考え方のことです。
状況の強さとは、その場の状況が、人の行動をどれくらい強く制約し、個人差が表れる余地を小さくしているかを示す考え方のことです。
特性の密度分布とは、性格の特性を、1回ごとの固定された行動ではなく、その人が様々な場面で実際にとる行動全体の分布として捉える考え方のことです。
出典
- Fleeson, W., & Law, M. K. (2015). Trait enactments as density distributions: The role of actors, situations, and observers in explaining stability and variability. Journal of Personality and Social Psychology, 109(6), 1090-1104.
- Alaybek, B., Dalal, R. S., Sheng, Z., Morris, A. G., Tomassetti, A. J., & Holland, S. J. (2017). Situational Strength Cues from Social Sources at Work: Relative Importance and Mediated Effects. Frontiers in Psychology, 8, 1512.
LESSON 11-5 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. フリーソンとローの2015年の研究で、外向性にあたる行動のばらつきのうち、個人内変動(状況によるその都度の変化)が占める割合はどれですか。
- 78%
- 0%
- 100%(状況による変動はまったくなかった)
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正解: 1. 78%
外向性にあたる行動のばらつきのうち、78%が状況による個人内の変動でした。
Q2. 同じ研究で、前半10回と後半10回における、各人の行動の平均的な型の安定性について、正しいものはどれですか。
- r=.66から.81という、統計的に意味のある高い相関を示した
- まったく相関が見られなかった(r=0)
- マイナスの相関(行動の型が完全に逆転する)を示した
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正解: 1. r=.66から.81という、統計的に意味のある高い相関を示した
各人の行動の平均的な型の安定性は、外向性.67、協調性.78、勤勉性.66、情緒安定性.81、知性.70と、いずれも統計的に意味のある高い値でした。
Q3. アライベックらの2017年の論文が引用するメイヤーらの2009年のメタ分析によると、状況の制約が強い職業では何が起きますか。
- 勤勉性などの特性と職務成績との関連が弱くなる
- 性格の特性と職務成績との関連が、常にさらに強くなる
- 性格は職務成績と無関係なので、どの職業でも変化しない
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正解: 1. 勤勉性などの特性と職務成績との関連が弱くなる
状況の制約が強い職業ほど、勤勉性などの特性が職務成績を予測する力は弱くなる傾向が見られました。
レッスン11-5はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。