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第1章 心理学とは何か ・ レッスン1-4

心の不調はなぜ一つの原因で説明できないのか。生物心理社会モデルとは

読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-03

このレッスンの学習目標

要点

  1. 生物心理社会モデルとは、心や体の不調を、生物学的要因・心理的要因・社会的要因の3つが重なり合って起こるものとして理解する考え方のことです。
  2. 1977年、医師のジョージ・エンゲルが学術誌Scienceの論文で、生物学的な原因だけを重視するそれまでの医学モデルを批判し、このモデルを提唱しました。
  3. 現在も医療や心理学で広く使われていますが、3つの要因をどう組み合わせるかの基準があいまいだ、という批判も指摘されています。

01体の原因だけでは説明できないこと

同じ病気や不調でも、その人の考え方や置かれた環境によって、経過や感じ方は大きく変わります。

医学は長い間、病気の原因を体内の異常、たとえばウイルスや細菌、遺伝子の変化などに求めてきました。この考え方は生物医学モデルと呼ばれ、原因になる異常を見つけて取り除けば病気は治る、という前提に立っています。

しかし同じ病気にかかっても、回復の早さや痛みの感じ方は人によって違います。ストレスの感じ方や周囲からの支え、生活の環境なども、健康に影響することが知られています。体の異常だけでは、こうした違いを十分に説明できません。

たとえば同じ診断を受けた人どうしでも、不安が強いか落ち着いているか、頼れる家族や友人がいるかどうかで、治療への向き合い方は変わります。体の状態だけを見ていては、こうした違いの理由が見えてきません。

021977年、エンゲルが提唱した生物心理社会モデル

医師ジョージ・エンゲルは1977年、学術誌Scienceの論文で、生物学的要因に心理的要因・社会的要因を加えて考える生物心理社会モデルを提唱しました。

アメリカの精神科医ジョージ・エンゲルは、1977年に学術誌Science(196巻4286号)に「The need for a new medical model(新しい医学モデルの必要性)」という論文を発表しました。

エンゲルはこの論文で、それまでの医学が心理的・社会的・行動的な側面を軽視していると指摘しました。そして、生物学的要因だけでなく心理的要因・社会的要因も合わせて病気や健康を理解する、生物心理社会モデルを提唱しました。

03生物・心理・社会、それぞれ何を指すか

生物学的要因は体の状態、心理的要因は考え方や感情、社会的要因は人間関係や環境を指します。

生物学的要因とは、遺伝や脳の働き、ホルモン、体の病気など、体に関わる要因です。心理的要因とは、物事の受け止め方や感情、ストレスへの対処の仕方など、心の働きに関わる要因です。

社会的要因とは、家族や友人との関係、仕事、経済状況、文化的な背景など、その人を取り巻く環境を指します。生物心理社会モデルは、この3つの要因が重なり合って、健康や不調が決まると考えます。

たとえば、慢性的な痛みをかかえる人の生活を考えるとき、体の痛みの強さ(生物学的要因)だけでなく、痛みをどう受け止めているか(心理的要因)、周囲の理解や支え(社会的要因)も合わせて見る必要がある、という考え方です。

04このモデルの意義と、今も続く議論

生物心理社会モデルは今も医療や心理学で広く使われていますが、3つの要因のバランスの取りにくさなど、限界も指摘されています。

生物心理社会モデルは、体の病気だけでなく心の不調を理解するときにも使われる考え方です。2003年に発表された論文でも、医学・心理学・社会学など複数の分野の研究を組み合わせて健康を理解するための枠組みとして紹介されています。

一方で、2015年に発表された論文では、3つの要因をどう組み合わせるかの基準があいまいで、実際の医療では依然として体の異常を重視する考え方が根強い、という批判も指摘されています。

それでも、心や体の不調を一つの原因だけに求めず、複数の視点から考えるという発想は、この後の章で学ぶストレスや心の不調を理解するうえでも土台になります。

KEYWORDSキーワード(日本語・英語)

このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。

生物心理社会モデルBiopsychosocial model

心や体の不調を、生物学的要因・心理的要因・社会的要因の3つの組み合わせで理解しようとする考え方。

生物医学モデルBiomedical model

病気の原因を、もっぱら体内の生物学的な異常に求める考え方。

心理社会的要因Psychosocial factors

心理的要因と社会的要因をまとめた呼び方。

出典

  1. Engel, G. L. (1977). The need for a new medical model: A challenge for biomedicine. Science, 196(4286), 129-136.(原典。下記PMC論文で年・誌名・内容を確認)
  2. Bolton, D. (2023). A revitalized biopsychosocial model: core theory, research paradigms, and clinical implications. Psychological Medicine, 53(16), 7504-7511.
  3. Lindau, S. T., Laumann, E. O., Levinson, W., & Waite, L. J. (2003). Synthesis of Scientific Disciplines in Pursuit of Health: the Interactive Biopsychosocial Model. Perspectives in Biology and Medicine, 46(3 Suppl), S74-S86.
  4. Benning, T. B. (2015). Limitations of the biopsychosocial model in psychiatry. Advances in Medical Education and Practice, 6, 347-352.

LESSON 1-4 の仕上げ

確認クイズ(全3問)

学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。

Q1. 生物心理社会モデルを提唱したのは誰ですか。
  1. ジョージ・エンゲル
  2. ジークムント・フロイト
  3. エイブラハム・マズロー
答えを見る

正解: 1. ジョージ・エンゲル
精神科医のジョージ・エンゲルが1977年に提唱しました。

Q2. 生物心理社会モデルが発表されたのは、何年のどの学術誌ですか。
  1. 1977年・Science誌
  2. 1943年・Psychological Review誌
  3. 1967年に出版された書籍
答えを見る

正解: 1. 1977年・Science誌
1977年、学術誌Scienceに発表された論文「The need for a new medical model」で提唱されました。

Q3. 生物心理社会モデルへの批判として指摘されていることは何ですか。
  1. 3つの要因をどう組み合わせるかの基準があいまいなこと
  2. 心理的要因を一切扱わないこと
  3. 科学的な研究では全く使われていないこと
答えを見る

正解: 1. 3つの要因をどう組み合わせるかの基準があいまいなこと
2015年に発表された論文では、3つの要因のバランスの基準があいまいだという批判が指摘されています。

レッスン1-4はここまでです

クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。

第1章 心理学とは何か のレッスン一覧
  1. 1-1心理学とは何か
  2. 1-2心理学の歴史
  3. 1-3心理学の分野と仕事
  4. 1-4生物心理社会モデル

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