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第9章 発達 ・ レッスン9-1発達心理学は何を研究する学問か
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- 発達心理学が研究する対象を、生涯という時間軸で説明できる
- 「敏感期」とは何を指す概念か、臨界期との違いとともに説明できる
- 敏感期の存在を示す動物実験と人間の研究を、それぞれ具体例とともに説明できる
要点
- 発達心理学とは、受胎から老年期までの、心と行動の変化を研究する心理学の一分野のことです。
- 敏感期とは、経験の効果がとくに強く現れる、発達の中の限られた期間のことです。
- 子猫の視覚野を使った実験と、施設で育った子どもを追跡した研究の両方が、経験の時期によって発達への影響が変わることを示しています。
01発達心理学とは何か
発達心理学とは、受胎から老年期までの、心と行動の変化を研究する心理学の一分野のことです。
「発達」という言葉から、子どもが大人になるまでの変化を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、発達心理学が扱う範囲は、子ども時代だけにとどまりません。
発達心理学は、乳幼児期の認知や愛着だけでなく、老年期にいたるまでの心と行動の変化を、生涯を通じて研究の対象としています。この講座でも、第9章から第10章にかけて、子ども時代の発達を中心に扱っていきます。
この章ではまず、発達心理学の中でもとくに重要な考え方である「敏感期」を取り上げます。経験のタイミングが、発達にどのように関わるかを見ていきます。
02敏感期とは何か。臨界期との違い
敏感期とは、経験の効果がとくに強く現れる、発達の中の限られた期間のことです。
2011年に学術誌Monographs of the Society for Research in Child Developmentに発表された論文によると、敏感期とは、経験の効果がとくに強く現れる、発達の中の限られた期間を指す概念です。この論文は、発達心理学者Knudsenによる定義を引用しています。
同じ論文は、敏感期を「臨界期」と区別しています。臨界期は、神経回路に永続的な変化が生じる期間を指すのに対し、敏感期は、その期間を過ぎても、後の経験によって影響がある程度まで補われる可能性がある期間です。
つまり、「この時期を逃すと一切取り返しがつかない」という意味ではありません。敏感期という考え方は、経験の効果が時期によって強弱を持つことを示す、臨界期より柔らかい概念です。
03子猫の実験が示した敏感期。視覚野の発達
子猫を使った実験では、片方の目を一時的に閉じる時期が早いほど、視覚野への影響が大きくなることが示されました。
2015年に学術誌Developmental Neurobiologyに発表された論文によると、1960年代にHubelとWieselが行った実験では、子猫の片方の目を一時的に閉じる(単眼遮蔽)と、閉じた目から大脳の視覚野への神経の影響力が大きく失われ、両目から入力を受ける神経細胞の数も減ることが示されました。
同じ論文によると、単眼遮蔽による視覚野への影響は、遮蔽を受けた個体の年齢が高いほど、また遮蔽の期間が短いほど、軽くなることが分かっています。生まれて間もない時期ほど、経験の影響を強く受けるということです。
サルを使った研究でも、生後まもない時期に感受性が最も高く、その後は時間とともに感受性が下がっていくことが示されています。同じ論文は、視覚野の中の敏感期は一つではなく、調べる細胞の層や測り方によって複数存在すると述べています。
04人間の子どもでも敏感期は確認されている
施設で育った子どもを追跡した研究でも、養育環境が変わった時期が早いほど、その後の発達への影響が小さいことが示されています。
前述のMonographsの論文は、ルーマニアの施設で育った子どもを里親家庭に移すブカレスト早期介入プロジェクト(BEIP)の結果を紹介しています。生後15か月より前に里親家庭に移された子どもの言語能力は、施設で育っていない子どもと同程度でしたが、15か月より後に移された子どもには、言語の遅れが見られました。
イギリスで行われた英国・ルーマニア養子研究(ERA)では、生後6か月より前にルーマニアの施設から養子に出された子どもは、IQ・ワーキングメモリー・不注意・多動などの指標で、施設を経験していない子どもと同程度の発達を示しました。
一方、生後18か月から24か月の間、施設での養育を経験した子どもには、期待される発達よりも低い結果が見られました。人間の子どもでも、養育環境が変わる時期によって、その後の発達への影響の大きさが変わることが、追跡調査によって示されています。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
発達心理学とは、受胎から老年期までの、心と行動の変化を研究する心理学の一分野のことです。
敏感期とは、経験の効果がとくに強く現れる、発達の中の限られた期間のことです。
臨界期とは、その期間を過ぎると、神経回路に永続的な変化が生じる発達の期間のことです。
単眼遮蔽とは、片方の目からの視覚入力を一時的に遮り、脳の視覚野の発達への影響を調べる実験手法のことです。
出典
- Zeanah, C. H., Gunnar, M. R., McCall, R. B., Kreppner, J. M., & Fox, N. A. (2011). Sensitive Periods. Monographs of the Society for Research in Child Development, 76(4), 147-162.
- Kiorpes, L. (2015). Visual development in primates: Neural mechanisms and critical periods. Developmental Neurobiology, 75(10), 1080-1090.
LESSON 9-1 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. 発達心理学が研究する対象について、正しい説明はどれですか。
- 受胎から老年期までの、心と行動の変化
- 子どもが大人になるまでの変化だけ
- 高齢期に起こる心の変化だけ
答えを見る
正解: 1. 受胎から老年期までの、心と行動の変化
発達心理学は、受胎から老年期にいたるまでの、心と行動の変化を研究の対象としています。
Q2. 敏感期と臨界期の違いについて、正しい説明はどれですか。
- 臨界期は神経回路に永続的な変化が生じる期間で、敏感期はその後の経験で影響がある程度補われうる期間
- 敏感期は臨界期よりも短い期間を指す
- 臨界期と敏感期はまったく同じ意味で使われる
答えを見る
正解: 1. 臨界期は神経回路に永続的な変化が生じる期間で、敏感期はその後の経験で影響がある程度補われうる期間
臨界期は神経回路に永続的な変化が生じる期間を指すのに対し、敏感期は、その期間を過ぎても後の経験によって影響がある程度まで補われる可能性がある期間です。
Q3. ブカレスト早期介入プロジェクト(BEIP)で、生後15か月より前に里親家庭に移された子どもについて、正しい説明はどれですか。
- 施設で育っていない子どもと同程度の言語能力を示した
- 施設で育った子どもよりも言語の発達が遅れた
- 言語能力にはまったく変化が見られなかった
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正解: 1. 施設で育っていない子どもと同程度の言語能力を示した
BEIPの結果では、生後15か月より前に里親家庭に移された子どもの言語能力は、施設で育っていない子どもと同程度でした。15か月より後に移された子どもには言語の遅れが見られました。
レッスン9-1はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。