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第10章 感情と動機づけ ・ レッスン10-3

表情から感情は読み取れるのか。エクマンの基本感情説

読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-02

このレッスンの学習目標

要点

  1. 基本感情説とは、喜び・悲しみなど一部の感情には、文化を超えて共通する典型的な表情がある、とする考え方のことです。
  2. ポーズをとってもらった表情の研究では、怒り・恐れ・驚きなどで文化を超えた一致がある程度示される一方、自然な場面での表情では、一致ははるかに弱いことが報告されています。
  3. 2012年の研究では、東アジアの人たちが表す表情のモデルは、西洋の人たちのモデルほど、感情ごとにはっきり分かれていないことが示されています。

01基本感情説とは何か

基本感情説とは、喜び・悲しみ・怒り・恐れ・驚き・嫌悪という感情には、文化を超えて共通する典型的な表情がある、とする考え方のことです。

2019年に学術誌Psychological Science in the Public Interestに発表されたバレット(Barrett)らの論文によると、心理学者エクマンらが唱えた基本感情説は、過去50年にわたり、感情の研究に大きな影響を与えてきたとされています。

同じ論文によると、基本感情説は、ある感情のカテゴリーに属する出来事は、ある程度の幅はあっても、典型的な1組の表情の動き(プロトタイプ)によって表される、と考える立場です。

この考え方にもとづくと、たとえば怒りには怒りに特有の表情があり、文化が違っても、人はその表情を見れば怒りだとわかるはずだ、ということになります。

02表情から感情を読み取れるかを調べる基準

表情が感情を表す証拠と言えるかどうかは、偶然を超えて現れるかという「信頼性」と、その感情だけに特有かという「特異性」という基準で調べられます。

バレットらの論文は、表情が特定の感情を表す手がかりと言えるために満たすべき基準として、信頼性・特異性・一般化可能性・妥当性という4つを挙げています。

同じ論文によると、信頼性とは、ある感情のときに、想定される表情が、偶然そうなる確率より高い頻度で現れることを指します。特異性とは、その表情が、ほかの感情のときにはあまり現れず、その感情のときだけに、偶然を超えて現れることを指します。

同じ論文によると、ポーズをとってもらった表情を調べた研究では、怒り・恐れ・驚きについて、文化を超えて中程度から強い一致が見られた一方、嫌悪や悲しみについては、一致がより弱いことが報告されています。

03自然な表情ではどうか。弱い一致という結果

作られた表情ではなく、自然な場面での表情を調べた研究では、想定される表情と感情の一致は、かなり弱いことが報告されています。

バレットらの論文によると、ポーズを取ってもらうのではなく、自然に起こった場面での表情を調べた複数の研究をまとめた分析では、平均の効果量がr=.32にとどまり、想定された表情が実際に現れた割合は、感情のカテゴリーによって15%から25%程度だったとされています。

同じ論文は、この結果について、基本感情説が想定するほど、表情と感情が強く結びついているとは言えないことを示していると説明しています。

04文化による違い。東アジアと西洋の比較研究

2012年の研究では、東アジアの人たちが表情で感情を表すモデルは、西洋の人たちのモデルほど、感情ごとにはっきり分かれていないことが示されています。

2012年に学術誌Proceedings of the National Academy of Sciencesに発表されたジャック(Jack)らの論文によると、西洋の参加者が表す表情のモデルでは、6つの基本感情それぞれが、はっきり分かれた、別々の表情の集まりとして現れました。

同じ論文によると、東アジアの参加者が表す表情のモデルでは、とくに驚き・恐れ・嫌悪・怒り・悲しみの間で、表情のパターンに重なりが見られました。また、感情の強さを目の動きを中心に表す傾向が、西洋の参加者とは異なっていたとされています。

この研究は、ダーウィン以来の「表情は生物学的・進化的に共通している」という考え方に対して、表情の表し方には文化による違いもあることを示す結果として位置づけられています。

KEYWORDSキーワード(日本語・英語)

このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。

基本感情説Basic emotion theory

基本感情説とは、喜び・悲しみなど一部の感情には、文化を超えて共通する典型的な表情がある、とする考え方のことです。

信頼性(表情研究における)Reliability

表情研究における信頼性とは、ある感情のときに、想定される表情が、偶然そうなる確率より高い頻度で現れることのことです。

特異性(表情研究における)Specificity

表情研究における特異性とは、ある表情が、特定の感情のときだけに、偶然を超えて現れることのことです。

EXAMPLES身近な例で深める

このレッスンの内容を、日常の疑問にあてはめた研究解説記事です。

出典

  1. Barrett, L. F., Adolphs, R., Marsella, S., Martinez, A. M., & Pollak, S. D. (2019). Emotional Expressions Reconsidered: Challenges to Inferring Emotion From Human Facial Movements. Psychological Science in the Public Interest, 20(1), 1-68.
  2. Jack, R. E., Garrod, O. G. B., Yu, H., Caldara, R., & Schyns, P. G. (2012). Facial expressions of emotion are not culturally universal. Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(19), 7241-7244.

LESSON 10-3 の仕上げ

確認クイズ(全3問)

学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。

Q1. 基本感情説にもとづくと、怒りや喜びなどの感情表現について正しい説明はどれですか。
  1. 感情ごとに、文化を超えて共通する典型的な表情(プロトタイプ)がある
  2. 表情は、文化ごとにまったく無関係に作られる
  3. 表情と感情の間には、いかなる関連もない
答えを見る

正解: 1. 感情ごとに、文化を超えて共通する典型的な表情(プロトタイプ)がある
基本感情説は、ある感情のカテゴリーには、文化を超えて共通する典型的な1組の表情の動き(プロトタイプ)がある、と考える立場です。

Q2. バレットらの論文によれば、自然な場面での表情を調べた研究で示されたこととして正しいものはどれですか。
  1. 想定された表情が実際に現れた割合は、感情のカテゴリーによって15〜25%程度にとどまった
  2. 想定された表情は、100%の確率で必ず現れた
  3. 表情と感情の関係は、まったく調べられていない
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正解: 1. 想定された表情が実際に現れた割合は、感情のカテゴリーによって15〜25%程度にとどまった
自然な場面での表情を調べた分析では、平均の効果量がr=.32にとどまり、想定された表情が現れた割合は15〜25%程度だったとされています。

Q3. 2012年のジャックらの研究で示された、東アジアの参加者の表情モデルの特徴として正しいものはどれですか。
  1. 驚き・恐れ・嫌悪・怒り・悲しみの表情パターンに重なりが見られた
  2. 西洋の参加者よりも、6つの感情がよりはっきり分かれていた
  3. 表情と感情の対応が、西洋の参加者とまったく同じだった
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正解: 1. 驚き・恐れ・嫌悪・怒り・悲しみの表情パターンに重なりが見られた
東アジアの参加者の表情モデルでは、とくに驚き・恐れ・嫌悪・怒り・悲しみの間で、表情のパターンに重なりが見られました。

レッスン10-3はここまでです

クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。

第10章 感情と動機づけ のレッスン一覧
  1. 10-1感情の構成要素
  2. 10-2感情の2つの古典理論
  3. 10-3基本感情説と表情
  4. 10-4動機づけの基本
  5. 10-5内発・外発動機づけ

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