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第10章 感情と動機づけ ・ レッスン10-4動機づけとは何か。欲求・動因・目標
読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- 動機づけとは何かを、心理学の研究にもとづいて説明できる
- 動機づけを構成する方向性と強度という2つの要素を説明できる
- 欲求・動因・目標(インセンティブ)という3つの言葉の違いを説明できる
要点
- 動機づけとは、目標に向かって行動を引き起こし、それを持続させる心のはたらきのことです。
- 動機づけには、どの目標を目指すかという「方向性」と、どれくらいの強さで目指すかという「強度」という、2つの要素があります。
- かつては、欲求が生み出す不快な「動因」を減らすために行動が起こるという考え方が主流でしたが、現在では、行動がプラスの「目標(インセンティブ)」に引き寄せられる側面も重視されています。
01動機づけとは何か
動機づけとは、目標に向かって行動を引き起こし、それを持続させる心のはたらきのことです。
2016年に学術誌Current Topics in Behavioral Neuroscienceに発表されたシンプソン(Simpson)とバルサム(Balsam)の論文によると、動機づけとは、目標を目指して行動を引き起こすはたらきのことだと定義されています。
同じ論文によると、動機づけには、どの目標を目指すかという「方向性」と、どれくらいの強さ・勢いで目指すかという「強度」という、2つの要素があります。論文は、この2つをベクトルにたとえ、ベクトルの長さが強度を、向きが方向性を表すと説明しています。
たとえば、同じ「お腹がすいた」という方向性を持っていても、動機づけの強さによって、すぐに食べ物を探しに行くか、しばらく我慢できるかが変わってきます。
02欲求と動因。行動を内側から押し出す力
欲求(ニーズ)が満たされないと、体の中に「動因」と呼ばれる、行動を引き起こそうとする内側からの力が生まれると考えられてきました。
2018年に学術誌Frontiers in Psychologyに発表されたベリッジ(Berridge)の論文によると、20世紀の心理学と神経科学では、1900年代から1970年代にかけて、動因(ドライブ)と動因低減という2つの考え方が、報酬や動機づけについての研究の中心になっていました。
同じ論文によると、この考え方では、自然な動機づけは、栄養不足による空腹や、脱水による喉の渇きといった、体内の恒常性(ホメオスタシス)にかかわる欲求の信号によって引き起こされる、不快な状態を生み出すものとして捉えられていました。
シンプソンとバルサムの論文によると、心理学者ハルが唱えた初期の動因理論では、生物学的な欲求を減らすために行動が起こる、と考えられていました。ただし、同じ論文は、この理論では、動因は行動の勢いを強めるだけで、行動がどの方向に向かうかまでは説明できなかった、とも指摘しています。
03目標(インセンティブ)。行動を引き寄せるプラスの力
現在の研究では、行動は、不快な動因を減らすためだけでなく、プラスの価値を持つ目標(インセンティブ)に引き寄せられる形でも起こると考えられています。
ベリッジの論文によると、動因低減だけでは説明しきれない動機づけのはたらきとして、感情的にプラスの価値を持つ対象(インセンティブ)に、行動が引き寄せられるという視点が重視されるようになってきています。
シンプソンとバルサムの論文によると、動機づけにもとづく行動は、最終的に目標にたどり着くことに向けられており、目標を得ること自体が、報酬として感じられるとされています。
同じ論文は、食べ物・水・性・社会的なかかわりを、多くの動物に共通する基本的な欲求の例として挙げています。
04動因と目標は対立しない。現在の見方
現在の研究では、体内の欲求の状態と、目標が持つプラスの価値は、対立するものではなく、互いに影響し合うと考えられています。
ベリッジの論文によると、現在の研究で中心になっているのは、空腹や喉の渇きといった体内の欲求の状態が、独立した不快な動因として行動を押し出すというより、食べ物や水といった目標の、プラスの価値(インセンティブ・バリュー)を高める方向で働く、という見方です。
この見方では、空腹なときに食べ物がよりおいしく感じられたり、魅力的に見えたりすることも、欲求の状態が目標の価値を高めている例として説明できます。欲求・動因・目標という3つの言葉は、互いに切り離された別々の仕組みではなく、つながり合って行動を生み出す要素だと言えます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
動機づけとは、目標に向かって行動を引き起こし、それを持続させる心のはたらきのことです。
動因とは、欲求が満たされないときに生じる、行動を引き起こそうとする内側からの力のことです。
インセンティブとは、行動を引き寄せる、プラスの価値を持つ目標や対象のことです。
出典
- Simpson, E. H., & Balsam, P. D. (2016). The Behavioral Neuroscience of Motivation: An Overview of Concepts, Measures, and Translational Applications. Current Topics in Behavioral Neuroscience, 27, 1-12.
- Berridge, K. C. (2018). Evolving Concepts of Emotion and Motivation. Frontiers in Psychology, 9, 1647.
LESSON 10-4 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. シンプソンとバルサムの論文による動機づけの定義として正しいものはどれですか。
- 目標に向かって行動を引き起こし、それを持続させるはたらき
- 感情が体の反応を通じて生まれる仕組み
- 表情から相手の感情を読み取るはたらき
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正解: 1. 目標に向かって行動を引き起こし、それを持続させるはたらき
動機づけは、目標を目指して行動を引き起こし、それを持続させるはたらきとして定義されています。
Q2. ハルの初期の動因理論について、シンプソンとバルサムの論文が指摘する限界として正しいものはどれですか。
- 動因は行動の勢いを強めるだけで、行動の方向までは説明できなかった
- 動因は、行動の方向だけを決め、強さにはまったく関係しなかった
- 動因という考え方は、生物学的な欲求とは無関係だった
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正解: 1. 動因は行動の勢いを強めるだけで、行動の方向までは説明できなかった
ハルの動因理論では、動因は行動の勢いを強めるだけで、行動がどの方向に向かうかまでは説明できなかったと指摘されています。
Q3. ベリッジの論文によれば、現在の動機づけ研究で重視されるようになっている視点はどれですか。
- 行動が、プラスの価値を持つ目標(インセンティブ)に引き寄せられるという視点
- 動因を減らすことだけが、行動を説明するという視点
- 動機づけには、方向性という要素は存在しないという視点
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正解: 1. 行動が、プラスの価値を持つ目標(インセンティブ)に引き寄せられるという視点
現在の研究では、動因低減だけでなく、感情的にプラスの価値を持つ目標(インセンティブ)に行動が引き寄せられるという視点が重視されています。
レッスン10-4はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。