HOME / 日常の心理学 / 講座 / 第10章 感情と動機づけ / 感情の2つの古典理論

第10章 感情と動機づけ ・ レッスン10-2

感情はどのように生まれるのか。ジェームズ=ランゲ説とキャノン=バード説

読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-02

このレッスンの学習目標

要点

  1. ジェームズ=ランゲ説とは、体の反応が先に起こり、その反応を感じ取ることが感情だ、とする考え方のことです。
  2. キャノン=バード説とは、出来事を知覚すると、脳が感情の感じと体の反応を、同時に、別々に引き起こす、とする考え方のことです。
  3. この2つの説は、感情が生まれる順番をめぐって対立しており、体の反応と感情の関係は、現在の研究でも議論が続いています。

01感情はどちらが先か。心理学の古典的な対立

感情の原因をめぐっては、体の反応が先か、感じることが先かという、19世紀末からの古典的な対立があります。

怖いから震えるのか、震えるから怖いのか。この素朴な疑問は、19世紀末の心理学で、感情がどのように生まれるかをめぐる、大きな対立のきっかけになりました。

2010年に学術誌Frontiers in Human Neuroscienceに発表されたドント(D'Hondt)らの論文によると、この対立は、ジェームズ=ランゲ説とキャノン=バード説という、2つの古典的な理論として知られています。

同じ論文によると、この対立は、その後の感情についての研究にも影響を与え続けているとされています。

02ジェームズ=ランゲ説。体の反応が先にある

ジェームズ=ランゲ説とは、体の反応が先に起こり、その反応を感じ取ることが感情だ、とする考え方のことです。

2012年に学術誌Frontiers in Psychologyに発表されたノルトフ(Northoff)の論文によると、心理学者ジェームズは、1884年に発表した論文で、「泣くから悲しいのであり、殴るから怒るのであり、震えるから怖いのであって、悲しいから泣き、怒っているから殴り、怖いから震えるのではない」と述べました。

同じ論文によると、この考え方では、出来事を知覚したときにまず起こるのは、心拍や呼吸といった体の変化であり、その体の変化を脳が感じ取ることそのものが、感情だとされます。

ドントらの2010年の論文も、ジェームズ=ランゲ説を、感情を引き起こす出来事がまず末梢の体の変化を引き起こし、その体の反応を脳が解釈することで感情の感じが生まれる、という考え方として説明しています。

03キャノン=バード説。感じることと体の反応は同時に起こる

キャノン=バード説とは、出来事を知覚すると、脳が感情の感じと体の反応を、同時に、別々に引き起こす、とする考え方のことです。

ジェームズ=ランゲ説に対して、20世紀前半、生理学者キャノンは、体の反応が感情の原因だとする考え方を批判し、別の説明を唱えました。

ドントらの論文によると、キャノン=バード説では、感情を引き起こす出来事を知覚すると、脳がその情報をもとに、体の反応(発汗や心拍の変化など)と、主観的な感じ(怖い、嬉しいといった気持ち)を、同時に、しかし別々の仕組みで引き起こすと考えます。

この説では、体の反応を感じ取ることが感情の原因なのではなく、脳の働きが体の反応と感情の両方を同時に生み出す、という順番の違いが、ジェームズ=ランゲ説との大きな違いになっています。

04現在の研究から見るとどうか

近年の研究では、体の反応が感情の感じより先に起こる場合があることが示され、ジェームズ=ランゲ説を見直す動きもあります。

ドントらの論文によると、近年の研究では、自分で感情を作り出したときに、体の反応(生理的な変化)が、その感情を感じるより前に起こる場合があることが示されており、ジェームズ=ランゲ説を見直す材料になっているとされています。

同じ論文は、体の反応として測定できる「感情」と、本人の主観的な感じである「フィーリング」を区別する、神経科学者ダマシオの考え方にも触れています。

ジェームズ=ランゲ説とキャノン=バード説という2つの古典的な説は、どちらが完全に正しいかというより、感情が生まれる仕組みを考えるための、2つの異なる視点として、現在も参照され続けています。

KEYWORDSキーワード(日本語・英語)

このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。

ジェームズ=ランゲ説James-Lange theory

ジェームズ=ランゲ説とは、体の反応が先に起こり、その反応を感じ取ることが感情だ、とする考え方のことです。

キャノン=バード説Cannon-Bard theory

キャノン=バード説とは、出来事を知覚すると、脳が感情の感じと体の反応を、同時に、別々に引き起こす、とする考え方のことです。

フィーリングFeeling

フィーリングとは、感情のうち、本人が主観的に意識して経験する部分のことです。

出典

  1. Northoff, G. (2012). From Emotions to Consciousness – A Neuro-Phenomenal and Neuro-Relational Approach. Frontiers in Psychology, 3, 303.
  2. D'Hondt, F., Lassonde, M., Collignon, O., Dubarry, A.-S., Robert, M., Rigoulot, S., Honoré, J., Lepore, F., & Sequeira, H. (2010). Early brain-body impact of emotional arousal. Frontiers in Human Neuroscience, 4, 33.

LESSON 10-2 の仕上げ

確認クイズ(全3問)

学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。

Q1. ジェームズ=ランゲ説にもとづくと、感情が生まれる順番として正しいものはどれですか。
  1. 体の反応が先に起こり、それを感じ取ることが感情になる
  2. 感情の感じが先に起こり、その後で体が反応する
  3. 体の反応と感情の感じは、まったく無関係に起こる
答えを見る

正解: 1. 体の反応が先に起こり、それを感じ取ることが感情になる
ジェームズ=ランゲ説は、体の反応が先に起こり、その反応を感じ取ることが感情だ、とする考え方です。

Q2. キャノン=バード説にもとづくと、体の反応と感情の感じの関係として正しいものはどれですか。
  1. 脳が、体の反応と感情の感じを、同時に、別々に引き起こす
  2. 体の反応だけが感情の原因である
  3. 感情の感じだけが体の反応を引き起こす
答えを見る

正解: 1. 脳が、体の反応と感情の感じを、同時に、別々に引き起こす
キャノン=バード説では、出来事を知覚すると、脳が感情の感じと体の反応を、同時に、別々に引き起こすと考えます。

Q3. ジェームズが1884年の論文で述べた内容として正しいものはどれですか。
  1. 泣くから悲しいのであって、悲しいから泣くのではない
  2. 悲しいから泣くのであって、泣くから悲しいのではない
  3. 泣くことと悲しむことは、まったく無関係である
答えを見る

正解: 1. 泣くから悲しいのであって、悲しいから泣くのではない
ジェームズは1884年の論文で、「泣くから悲しいのであり、悲しいから泣くのではない」という趣旨のことを述べました。

レッスン10-2はここまでです

クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。

第10章 感情と動機づけ のレッスン一覧
  1. 10-1感情の構成要素
  2. 10-2感情の2つの古典理論
  3. 10-3基本感情説と表情
  4. 10-4動機づけの基本
  5. 10-5内発・外発動機づけ

講座の目次(全16章)へ