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第8章 記憶 ・ レッスン8-4忘却はなぜ起こるか。エビングハウスの忘却曲線
読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- エビングハウスが「節約法」という方法で、忘却の進み方を数値として示したことを説明できる
- 忘却曲線が、学習直後に急激に進み、その後はゆるやかになる形をしていることを説明できる
- 忘却の原因として、時間の経過による減衰と、他の記憶による干渉という2つの説明があることを説明できる
要点
- 忘却とは、一度覚えた情報を、時間とともに思い出せなくなっていく働きのことです。
- 1885年にエビングハウスは、無意味な音節を使った節約法という方法で、忘却の進み方を数値として示しました。
- 忘却の原因については、時間の経過による減衰と、他の記憶による干渉という、2つの説明が議論されてきました。
01エビングハウスの実験。無意味な音節と節約法
エビングハウスは1885年、無意味な音節を学習し、一定時間後に再学習するまでの反復回数の差を測る「節約法」で、忘却の進み方を数値として示しました。
2015年に学術誌PLOS ONEに発表された論文によると、心理学者エビングハウスは、既存の言葉や詩の断片では測定の誤差が大きくなることに気づき、既存の単語より特徴がそろった「無意味な音節」を、実験に用いる学習材料として導入しました。
同じ論文によると、エビングハウスが用いた「節約法」とは、あるリストを覚えるのにかかった反復回数と、一定時間後に同じリストを覚え直すのにかかった反復回数を比べ、その差を「節約」として測る方法です。たとえば、最初の学習に25回の反復が必要で、1日後の再学習に20回で済んだ場合、5回分、つまり20%の節約が得られたことになります。
02忘却曲線。学習直後に急激に進み、その後はゆるやかになる
エビングハウスの忘却曲線は、学習直後の1時間ほどで節約率が急激に下がり、その後はゆるやかに下がっていく形をしています。
同じ論文によると、エビングハウス自身の実験では、節約率は学習20分後に58.2%、1時間後に44.2%、9時間後に35.8%、1日後に33.7%、2日後に27.8%、6日後に25.4%、31日後に21.1%でした。
この数値を見ると、最初の1時間ほどで節約率が大きく下がり、その後は下がり方がゆるやかになっていくことがわかります。これが「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれる、よく知られた記憶の特徴です。
032015年の再現実験は何を示したか
2015年の再現実験では、学習20分後から6日後までの節約率はエビングハウスの結果とおおむね同じ形を示しましたが、31日後の値は大きく異なりました。
同じ論文によると、2015年にMurreとDrosは、エビングハウス自身の実験を、同じ節約法で再現する実験を行いました。再現実験での節約率は、20分後に47.2%、1時間後に37.3%、9時間後に27.6%、1日後に31.7%、2日後に23.0%、6日後に16.8%、31日後に4.1%でした。
論文の著者は、「エビングハウスの古典的な忘却の再現を試みた結果は、成功したと結論づけられる」と述べています。ただし、31日後の節約率(4.1%)は、エビングハウス自身の値(21.1%)よりかなり低く、この点は一致しませんでした。
04忘却はなぜ起こるか。時間の経過か、干渉か
忘却の原因としては、時間の経過そのものによる減衰と、他の記憶による干渉という、2つの説明が議論されてきました。
2009年に学術誌Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognitionに発表された論文によると、短期記憶からの忘却が、時間の経過による減衰(trace decay)によるものか、他の記憶による干渉(interference)によるものかは、長年議論されてきました。
同じ論文は、複数の実験を行った結果、短期記憶からの忘却は、単なる時間の経過による減衰では説明できず、干渉のほうがはるかに大きな役割を果たすという結果を報告しています。
エビングハウスが示した忘却曲線は、忘れていく「速さ」の形を明らかにしましたが、なぜ忘れるのかという「原因」については、今も研究が続いています。次のレッスンでは、記憶そのものが歪んでしまう現象、目撃証言と誤情報効果について学びます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
忘却とは、一度覚えた情報を、時間とともに思い出せなくなっていく働きのことです。
節約法とは、最初の学習にかかった反復回数と、再学習にかかった反復回数の差を「節約」として測る方法のことです。
忘却曲線とは、学習後の時間経過と、覚えている量(節約率)との関係を表した曲線のことです。
干渉とは、他の記憶の影響によって、ある記憶を思い出しにくくなることのことです。
出典
- Murre, J. M. J., & Dros, J. (2015). Replication and Analysis of Ebbinghaus' Forgetting Curve. PLOS ONE, 10(7), e0120644.
- Berman, M. G., Jonides, J., & Lewis, R. L. (2009). In Search of Decay in Verbal Short-Term Memory. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 35(2), 317-333.
LESSON 8-4 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. エビングハウスが考案した「節約法」とは何ですか。
- 最初の学習と再学習にかかった反復回数の差を節約として測る方法
- 記憶した内容を他人に話す方法
- 記憶を長期記憶に移すための訓練法
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正解: 1. 最初の学習と再学習にかかった反復回数の差を節約として測る方法
節約法とは、最初の学習と、一定時間後の再学習にかかった反復回数の差を節約として測る方法です。
Q2. エビングハウス自身の実験で、節約率が最も大きく下がったのはどの期間ですか。
- 学習直後から1時間後までの間
- 6日後から31日後までの間
- 1日後から2日後までの間
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正解: 1. 学習直後から1時間後までの間
節約率は20分後の58.2%から1時間後の44.2%へと、最初の1時間ほどで大きく下がり、その後はゆるやかになりました。
Q3. 2009年の研究によると、短期記憶からの忘却に、より大きく関わっているとされるのはどちらですか。
- 他の記憶による干渉
- 時間の経過そのものによる減衰
- どちらも全く関わっていない
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正解: 1. 他の記憶による干渉
複数の実験の結果、短期記憶からの忘却は、単なる時間の経過による減衰では説明できず、干渉のほうがはるかに大きな役割を果たすことが報告されています。
レッスン8-4はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。