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第8章 記憶 ・ レッスン8-3

長期記憶の種類。意味記憶・エピソード記憶・手続き記憶

読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-02

このレッスンの学習目標

要点

  1. 長期記憶とは、1つの働きではなく、複数の種類に分かれる記憶の集まりのことです。
  2. 宣言的記憶には、世界についての事実を覚える意味記憶と、いつどこで起きた出来事を覚えるエピソード記憶が含まれます。
  3. 手続き記憶などの非宣言的記憶は、技能や習慣として表れる記憶で、宣言的記憶とは異なる脳の部位に支えられています。

01長期記憶は1つではない。宣言的記憶と手続き記憶

長期記憶は、意識して思い出せる宣言的記憶と、技能や習慣として行動に表れる手続き記憶(非宣言的記憶)など、複数の種類に分かれます。

2015年に学術誌Cold Spring Harbor Perspectives in Biologyに発表された論文によると、宣言的知識とは、意識して思い出せる知識のことで、考え・音・画像・感覚・匂い・言葉として思い出すことができます。一方、手続き的知識とは、技能に基づく知識のことで、学んだ内容は身につけた手順の中に組み込まれ、実際の行動によって表れます。

同じ論文によると、脳の両側の内側側頭葉を切除された患者H.M.は、重い記憶障害を負いましたが、鏡に映った文字を見ながら手を動かす技能(鏡映描写)を学習できることがわかりました。練習した日のことは毎回覚えていないのに、技能そのものは練習を重ねるごとに上達していったのです。この発見は、記憶が1つのまとまった働きではないことを示しました。

02宣言的記憶の2つの柱。意味記憶とエピソード記憶

宣言的記憶には、世界についての事実を覚える意味記憶と、特定の時と場所での出来事を覚えるエピソード記憶という、2つの構成要素があります。

同じ論文によると、宣言的記憶には2つの主要な構成要素があります。1つは、世界についての事実を覚える意味記憶、もう1つは、特定の時と場所での出来事を、もとの文脈の中で再び経験できる形で覚えるエピソード記憶です。

2024年に学術誌Philosophical Transactions of the Royal Society Bに発表された論文によると、心理学者エンデル・タルヴィングは1972年に出版した書籍の章で、この区別を初めて提案しました。同じ論文によると、タルヴィングはエピソード記憶を、他の経験した出来事との時間的・空間的な関係のなかで主観的に位置づけられる、自分自身の過去における出来事の記憶として説明しました。

03手続き記憶とは何か。技能や習慣としての知識

手続き記憶(非宣言的記憶)とは、技能や習慣、条件づけ、プライミングなど、意識して思い出す必要のない形で行動に表れる記憶のことです。

2015年の論文によると、非宣言的記憶には、技能や習慣、単純な条件づけ、プライミング(直前に見聞きした項目と関連する項目を、見つけたり分類したりしやすくなる現象)、さらに慣れや感覚過敏化のような、進化的に古い行動の変化も含まれます。

H.M.の鏡映描写の学習は、手続き記憶の一例です。意味記憶やエピソード記憶が深く損なわれていても、手続き記憶は保たれることがあるため、両者は異なる仕組みに支えられていると考えられています。

04脳の中の分業。記憶の種類ごとに違う部位が働く

宣言的記憶は海馬を中心とする部位に、手続き記憶は新線条体・小脳・扁桃体など、記憶の種類ごとに異なる脳の部位に支えられています。

2015年の論文によると、宣言的記憶を支える主な部位は、海馬と、それに隣接する嗅内皮質・嗅周皮質・海馬傍皮質です。一方、徐々にフィードバックを重ねて身につく習慣的な記憶には、海馬ではなく新線条体が重要であることがわかっています。

同じ論文によると、まばたきの条件づけ(特定の合図に合わせてまばたきを学習する手続き)は小脳とその周辺の脳幹の回路に支えられ、恐怖学習には扁桃体が重要な役割を果たします。

このように、長期記憶は1つの貯蔵庫ではなく、意味記憶・エピソード記憶・手続き記憶など、異なる脳の部位に支えられた複数の仕組みの集まりです。次のレッスンでは、記憶がなぜ忘れられていくのかを、エビングハウスの忘却曲線とともに見ていきます。

KEYWORDSキーワード(日本語・英語)

このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。

宣言的記憶Declarative memory

宣言的記憶とは、意識して思い出せる、考えや出来事についての知識のことです。

意味記憶Semantic memory

意味記憶とは、世界についての事実を覚えている記憶のことです。

エピソード記憶Episodic memory

エピソード記憶とは、特定の時と場所での出来事を、もとの文脈とともに覚えている記憶のことです。

手続き記憶(非宣言的記憶)Procedural memory

手続き記憶とは、技能や習慣として行動に表れる、意識して思い出す必要のない記憶のことです。

プライミングPriming

プライミングとは、直前に見聞きした項目と関連する項目を、見つけたり分類したりしやすくなる現象のことです。

出典

  1. Squire, L. R., & Dede, A. J. O. (2015). Conscious and Unconscious Memory Systems. Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 7(3), a021667.
  2. Gentry, H., & Buckner, C. (2024). Transitional gradation and the distinction between episodic and semantic memory. Philosophical Transactions of the Royal Society B, 379(1913), 20230407.

LESSON 8-3 の仕上げ

確認クイズ(全3問)

学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。

Q1. 患者H.M.は、内側側頭葉を切除された後も、鏡映描写という技能を学習できました。この発見が示すことは何ですか。
  1. 記憶は1つのまとまった働きではなく、複数の種類に分かれる
  2. 記憶はすべて海馬に支えられている
  3. 技能の学習には記憶が関係しない
答えを見る

正解: 1. 記憶は1つのまとまった働きではなく、複数の種類に分かれる
H.M.の症例は、意味記憶やエピソード記憶が損なわれても、手続き記憶が保たれることを示し、記憶が1つの働きではないことを示しました。

Q2. 宣言的記憶の2つの構成要素は何ですか。
  1. 意味記憶とエピソード記憶
  2. 短期記憶と長期記憶
  3. 符号化と検索
答えを見る

正解: 1. 意味記憶とエピソード記憶
宣言的記憶には、世界についての事実を覚える意味記憶と、特定の時と場所での出来事を覚えるエピソード記憶という、2つの構成要素があります。

Q3. まばたきの条件づけ(手続き記憶の一種)を支えるとされる脳の部位はどれですか。
  1. 小脳とその周辺の脳幹の回路
  2. 海馬
  3. 扁桃体
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正解: 1. 小脳とその周辺の脳幹の回路
まばたきの条件づけは、小脳とその周辺の脳幹の回路に支えられるとされています。

レッスン8-3はここまでです

クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。

第8章 記憶 のレッスン一覧
  1. 8-1記憶の3段階
  2. 8-2短期記憶とWM
  3. 8-3長期記憶の種類
  4. 8-4忘却曲線
  5. 8-5記憶の歪み

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