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第8章 記憶 ・ レッスン8-1記憶とは何か。符号化・貯蔵・検索の3段階
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- 記憶を説明する「符号化・貯蔵・検索」という3段階の枠組みを説明できる
- 符号化と検索が、それぞれ何を指す働きかを説明できる
- 記憶の貯蔵(固定化)には時間がかかることを、具体的な時間の違いとともに説明できる
要点
- 記憶とは、経験を取り込み、保持し、必要なときに取り出す、符号化・貯蔵・検索という3つの働きの組み合わせのことです。
- 符号化は経験を記憶の形に変える最初の働き、貯蔵(固定化)はその情報が時間とともに安定する働きです。
- 検索はミリ秒単位で起こる一方、貯蔵が安定するまでには数時間から数年かかることがあります。
01記憶とは何か
記憶とは、経験を取り込み、保持し、必要なときに取り出す、符号化・貯蔵・検索という3つの働きの組み合わせのことです。
私たちは昨日の出来事や、何年も前に覚えた知識を、必要なときに思い出せます。この「覚えて、あとで使う」という働きは、1つの作業ではなく、複数の段階に分けて説明されています。
2018年に学術誌Nature Reviews Neuroscienceに発表された論文によると、記憶を理解するための最も一般的な枠組みは、記憶を3つの段階に分けます。最初の形成である符号化(エンコーディング)、その後の継続的な貯蔵、そして検索です。
この3段階は、どれも独立した働きでありながら、つながって初めて「記憶する」という一連の過程になります。どこかの段階がうまく働かなければ、記憶は成立しません。次の節から、符号化・貯蔵・検索を順に見ていきます。
02符号化。経験を記憶の形に変える
符号化とは、経験の神経表現を結びつけ、時間とともに展開する出来事の情報を捉える、記憶の最初の形成過程のことです。
同じ論文によると、符号化の間、経験の神経表現は互いに結びつけられ、時間の中で展開していく出来事の情報を捉える必要があります。1つの出来事は、見た情報・聞いた情報・考えた内容など、複数の要素からできているため、それらを結びつける作業が欠かせません。
たとえば、初めて会った人の名前と顔を覚えるとき、名前という音の情報と、顔という見た目の情報を結びつける作業が、符号化にあたります。この結びつけがうまくいかないと、後で取り出せる記憶として残りません。
つまり、「覚えたつもりなのに思い出せない」という経験の一部は、情報がそもそも結びつけられず、十分に符号化されなかったことが原因である場合があります。
03貯蔵(固定化)。記憶が安定するまでには時間がかかる
貯蔵(固定化)とは、符号化された情報が、時間とともに安定した変化として保持される、継続的な過程のことです。
同じ論文によると、検索という出来事はミリ秒単位で起こると理解されているのに対し、固定化(貯蔵が安定する過程)には、数時間から数年かかることがあります。検索と貯蔵は、かかる時間の長さがまったく違う働きだということです。
つまり、覚えたばかりの記憶はまだ不安定で、時間をかけて少しずつ安定していくと考えられています。符号化された直後の記憶が、そのまま長期間保たれる記憶になるわけではありません。
この「貯蔵には時間がかかる」という性質は、覚えた直後の記憶が、新しい出来事や妨害によって影響を受けやすいことにもつながります。安定するまでの間は、記憶はまだ変化しうる状態にあります。
04検索。保存された記憶を取り出す
検索とは、記憶として貯蔵されている情報に、必要なときにアクセスする働きのことです。
同じ論文によると、検索とは、記憶として貯蔵されている情報にアクセスする働きのことです。何かを決めたり、計画を立てたり、過去を振り返ったりするとき、私たちはこの検索という働きを使っています。
2008年に学術誌Progress in Brain Researchに発表された論文によると、記憶の一部を一時的に保持する働きと、生涯にわたって知識を保つ働きを区別する考え方は、心理学者ウィリアム・ジェームズが1890年に、意識の表面に残るわずかな情報である「一次記憶」と、生涯を通じて蓄えられる知識である「二次記憶」を分けて論じたことに始まります。検索は、主にこの二次記憶から情報を取り出す働きだと言えます。
符号化・貯蔵・検索という3つの働きは、それぞれ独立した脳の処理に支えられており、どれか1つが崩れても、記憶はうまく機能しません。次のレッスンでは、符号化された情報をごく短い間だけ保持する短期記憶とワーキングメモリの仕組みを見ていきます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
符号化とは、経験の神経表現を結びつけ、記憶としての最初の形を作る過程のことです。
貯蔵(固定化)とは、符号化された情報が、時間とともに安定した変化として保持される、継続的な過程のことです。
検索とは、記憶として貯蔵されている情報に、必要なときにアクセスする働きのことです。
一次記憶とは、意識の表面に残る、ごく短い間だけ保持される情報のことです。
二次記憶とは、生涯を通じて蓄えられる、量の多い知識の貯蔵のことです。
出典
- Joo, H. R., & Frank, L. M. (2018). The hippocampal sharp wave-ripple in memory retrieval for immediate use and consolidation. Nature Reviews Neuroscience, 19(12), 744-757.
- Cowan, N. (2008). What are the differences between long-term, short-term, and working memory? Progress in Brain Research, 169, 323-338.
LESSON 8-1 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. 記憶を理解するための最も一般的な枠組みとして挙げられている3つの段階はどれですか。
- 符号化・貯蔵・検索
- 感覚・知覚・注意
- 学習・記憶・忘却
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正解: 1. 符号化・貯蔵・検索
2018年の論文によると、記憶を理解する最も一般的な枠組みは、符号化・貯蔵・検索という3つの段階に分けます。
Q2. 検索と、貯蔵が安定するまでにかかる時間について、正しい説明はどれですか。
- 検索はミリ秒単位で起こり、貯蔵の安定には数時間から数年かかることがある
- 検索も貯蔵の安定も、どちらも一瞬で終わる
- 貯蔵の安定はミリ秒単位で起こり、検索には数年かかる
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正解: 1. 検索はミリ秒単位で起こり、貯蔵の安定には数時間から数年かかることがある
論文によると、検索はミリ秒単位で起こると理解されているのに対し、貯蔵が安定する過程(固定化)には数時間から数年かかることがあります。
Q3. ウィリアム・ジェームズが1890年に区別した、意識の表面に残るわずかな情報を何と呼びますか。
- 一次記憶
- 二次記憶
- 短期貯蔵庫
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正解: 1. 一次記憶
ジェームズは、意識の表面に残るわずかな情報を一次記憶、生涯を通じて蓄えられる知識を二次記憶と呼びました。
レッスン8-1はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。