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第14章 ストレスと健康 ・ レッスン14-2ストレスに体はどう反応するのか。セリエの汎適応症候群
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- セリエが発見した「三徴」が何かを、ラットの実験の内容とともに説明できる
- 汎適応症候群の3つの段階(警告反応期・抵抗期・疲憊期)を、それぞれの特徴とともに説明できる
- ストレッサーを受けたとき、脳と副腎がどのような経路でコルチゾールを放出するかを説明できる
要点
- 汎適応症候群とは、セリエが発見した、ストレッサーに対する体の一連の反応のことです。
- この反応は、警告反応期・抵抗期・疲憊期という3つの段階を経て進みます。
- 脳の視床下部から始まる経路によって、副腎からコルチゾールというホルモンが放出されます。
01セリエの発見。ラットの実験から見つかった「三徴」
セリエは1936年、ラットにさまざまな刺激を与えると、共通して3つの身体変化が起こることを発見しました。
ハンガリー出身の生理学者セリエ(Hans Selye)は、1935年、マギル大学で実験をおこなっていました。実験の内容は、ラットに卵巣や胎盤の抽出物を注射するというものです。2023年にBrain Sciences誌に、ロシェット(Rochette)らの総説論文が発表されました。この論文によると、セリエはこのとき、予想していなかった発見をしました。
注射した抽出物の種類に関わらず、ラットには共通して3つの変化が起こったのです。それは、(1)副腎皮質の肥大、(2)胸腺・脾臓・リンパ節の萎縮、(3)胃や腸の出血と潰瘍でした。セリエはこの3つの変化の組み合わせを、1936年にNature誌の論文で発表しました。論文名は「A Syndrome Produced by Diverse Nocuous Agents」です。
さらにセリエは、寒さや外傷など、種類の異なる刺激を与えても、同じ3つの変化が起こることを確かめました。この「刺激の種類を問わず起こる、共通した反応」が出発点となりました。ここから、のちに汎適応症候群(General Adaptation Syndrome, GAS)という考え方が生まれました。
02汎適応症候群の3つの段階
汎適応症候群は、警告反応期・抵抗期・疲憊期という3つの段階を経て進みます。
ロシェットらの論文によると、セリエはこの反応を、時間の経過にともなう3つの段階に整理しました。最初の段階は、警告反応期です。これはストレッサーが現れてから6〜48時間のあいだに起こり、体の防御の力が総動員される段階です。
48時間を過ぎてもストレッサーが続く場合、体は抵抗期に入ります。この段階は、「ストレッサーへの完全な適応を反映する」段階だとされています。体は新しい負荷に慣れ、一定の働きを保ちながら対応を続けます。
しかし、ストレッサーがあまりに強すぎたり、長く続きすぎたりすると、体は疲憊期に入ります。この段階は、「諸器官の働きの低下」によって特徴づけられます。前のレッスンで見た闘争・逃走反応は、この中の警告反応期にあたる、短時間の反応だと言えます。
03体の中では何が起きているのか。HPA系とコルチゾール
ストレッサーを受けると、視床下部から始まる経路を通って、副腎からコルチゾールというホルモンが放出されます。
セリエが発見した変化の背景には、どのようなしくみがあるのでしょうか。2006年にDialogues in Clinical Neuroscience誌に、スミス(Smith)とベイル(Vale)による総説論文が発表されました。この論文は、この経路をくわしく説明しています。
この経路は、脳の視床下部という部分から始まります。視床下部の神経細胞が、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)という物質を作り、血管を通じて脳下垂体に送ります。CRFを受け取った脳下垂体は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を血液中に放出します。
ACTHは血流に乗って副腎に届き、副腎皮質からコルチゾールというホルモンの分泌を促します。同論文によると、コルチゾールには、心臓の働きや呼吸数を高める一方で、消化などの働きを抑える効果があります。通常は、コルチゾールの濃度が高まると、その情報が視床下部と脳下垂体にフィードバックされ、分泌にブレーキがかかります。
04セリエの理論は今どう見直されているか
現代の研究では、疲憊期を、ストレスホルモン自体の積み重なった負担として捉える「アロスタティック負荷」という考え方が使われています。
セリエの理論が発表されてから、研究はさらに進みました。神経科学者マキューアン(McEwen)は、2005年にJournal of Psychiatry & Neuroscience誌に論文を発表しました。この論文で、マキューアンは、セリエの「疲憊期」を、別の角度から説明しています。
マキューアンによると、問題は防御の力が単純に尽きることではありません。むしろ、「ストレスホルモンそのものが、体に悪影響を及ぼすようになる」ことが問題だといいます。この考え方は、アロスタティック負荷(allostatic overload)と呼ばれています。
同論文は、ストレスが何週間も続くと、脳の一部の神経細胞が萎縮し、記憶に影響が出ると述べています。同じしくみによって、免疫の働きが抑えられたり、血圧の上昇が繰り返されることで動脈硬化が進んだりすることも指摘されています。次のレッスンでは、なぜ同じ出来事でも、人によってストレスの感じ方が違うのかを見ていきます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
汎適応症候群とは、ストレッサーの種類を問わず体に共通して起こる、一連の反応のことです。警告反応期・抵抗期・疲憊期の3段階からなります。
HPA系とは、視床下部・下垂体・副腎の3つが連携して、ストレッサーに対しコルチゾールを放出するしくみのことです。
コルチゾールとは、副腎から放出される、ストレス時に心臓の働きや呼吸数を高めるホルモンのことです。
アロスタティック負荷とは、ストレスホルモンが長期間にわたって働き続けることで、体に積み重なる負担のことです。
出典
- Rochette, L., Dogon, G., & Vergely, C. (2023). Stress: Eight decades after its definition by Hans Selye: "Stress is the spice of life." Brain Sciences, 13(2), 310.
- Smith, S. M., & Vale, W. W. (2006). The role of the hypothalamic-pituitary-adrenal axis in neuroendocrine responses to stress. Dialogues in Clinical Neuroscience, 8(4), 383-395.
- McEwen, B. S. (2005). Stressed or stressed out: What is the difference? Journal of Psychiatry & Neuroscience, 30(5), 315-318.
LESSON 14-2 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. セリエがラットの実験で発見した「三徴」に含まれないものはどれですか。
- 副腎皮質の肥大
- 胸腺・脾臓・リンパ節の萎縮
- 骨の密度の増加
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正解: 3. 骨の密度の増加
セリエが発見した三徴は、副腎皮質の肥大、胸腺・脾臓・リンパ節の萎縮、胃や腸の出血と潰瘍の3つです。骨密度の増加は含まれません。
Q2. 汎適応症候群で、「ストレッサーへの完全な適応を反映する」段階はどれですか。
- 警告反応期
- 抵抗期
- 疲憊期
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正解: 2. 抵抗期
ロシェットらの論文によると、48時間を過ぎてもストレッサーが続く場合に入る抵抗期が、「ストレッサーへの完全な適応を反映する」段階です。
Q3. HPA系で、脳下垂体がACTHを放出するきっかけとなる物質はどれですか。
- 視床下部から放出されるCRF
- 副腎から放出されるコルチゾール
- 心臓から放出されるアドレナリン
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正解: 1. 視床下部から放出されるCRF
スミスとベイルの論文によると、視床下部から放出されるCRFが脳下垂体に届くことで、ACTHの放出が引き起こされます。
レッスン14-2はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。