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第14章 ストレスと健康 ・ レッスン14-4ストレスは体にどう影響するのか。ストレスと心臓血管系・免疫
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- 慢性的な職場のストレスが、心臓の病気のリスクをどの程度高めるかを、大規模な研究の数字とともに説明できる
- ストレスが、傷の治りやワクチンの効果にどう影響するかを、具体的な研究結果とともに説明できる
- 糖質コルチコイド抵抗性という仕組みが、ストレスと炎症・免疫をどうつないでいるかを説明できる
要点
- 冠動脈性心疾患とは、心臓に血液を送る血管が詰まることで起こる、心臓の病気のことです。
- 慢性的な職場のストレスは、この冠動脈性心疾患や、傷の治り・ワクチンの効果にも影響することが、研究でわかっています。
- この背景には、ストレスが続くことで免疫細胞がコルチゾールの働きに反応しにくくなる、糖質コルチコイド抵抗性という仕組みがあります。
01慢性的な職場のストレスは、心臓の病気のリスクを高める
13のヨーロッパの研究を統合した分析によると、職場のストレスは、心臓の病気のリスクを約23%高めます。
ストレスが心臓に与える影響については、大規模な研究が積み重ねられています。2012年にLancet誌に、キヴィマキ(Kivimäki)らの研究が発表されました。この研究は、13のヨーロッパのコホート研究をまとめて分析しました。
この分析の対象は、最初は心臓の病気を持っていなかった19万7,473人です。平均7.5年にわたって追跡したところ、2,358件の冠動脈性心疾患(心臓の血管が詰まる病気)が新たに発生しました。
仕事の要求が高く、自分で決められることが少ない状態は「ジョブ・ストレイン(job strain)」と呼ばれます。この状態にあった人は、そうでない人に比べて、心臓の病気になるリスクが約23%高いという結果でした(ハザード比1.23、95%信頼区間1.10〜1.37)。ただし、著者らは、禁煙など他の要因への対策のほうが、効果が大きいとも述べています。
02ストレスは傷の治りを遅くする
介護による慢性的なストレスは、傷の治りを平均24%遅くすることが、研究で示されています。
ストレスは、体の修復能力にも影響します。心理学者キーコルト-グレイザー(Kiecolt-Glaser)とグレイザー(Glaser)は、この分野の研究を長年おこなってきました。2007年にBrain, Behavior, and Immunity誌に、グーアン(Gouin)らの論文が発表されました。この論文は、その成果をまとめています。
同論文によると、認知症の家族を介護している女性は、同じ条件の標準的な傷を受けた場合、傷が治るまでの時間が長くかかりました。介護をしていない人と比べて、平均24%長くかかったのです。介護という慢性的なストレスが、体の修復を遅らせていたのです。
同論文はさらに、試験前の歯学部の学生の例も紹介しています。試験前につけられた口の中の傷は、夏休み中につけられた同じ傷に比べて、治るまでの時間が40%長くかかりました。こちらは、短期間だが強いストレスの影響だと言えます。
03ストレスはワクチンの効果も弱める
慢性的なストレスを受けている人は、インフルエンザワクチンへの抗体反応が弱くなることが、研究で示されています。
1996年にProceedings of the National Academy of Sciences誌に、キーコルト-グレイザーらの研究が発表されました。この研究は、認知症の介護をしている32人と、介護をしていない32人を比較しました。2つのグループは、性別・年齢・社会経済的な状況をそろえた対照群です。
全員にインフルエンザワクチンを接種したところ、介護をしているグループは、ワクチンに対する抗体反応が弱いことがわかりました。この結果は、2つの異なる測定方法のいずれでも確認されました。慢性的なストレスが、ワクチンの効果そのものを弱める可能性があるということです。
04なぜ免疫に影響するのか。糖質コルチコイド抵抗性という仕組み
ストレスが続くと、免疫細胞がコルチゾールの働きに反応しにくくなる「糖質コルチコイド抵抗性」が起こり、炎症を抑えにくくなります。
ストレスが免疫にどう影響するのか。そのしくみを説明するのが、2012年にProceedings of the National Academy of Sciences誌に発表された、コーエン(Cohen)らの研究です。前のレッスンで見たように、コルチゾールには、炎症を抑える働きがあります。
しかし、ストレスが続くと、免疫細胞が、コルチゾールの働きに反応しにくくなることがあります。同論文はこれを、糖質コルチコイド抵抗性(glucocorticoid receptor resistance)と呼んでいます。この状態になると、炎症を適切に抑えられなくなります。
同論文によると、大きなストレスを感じる出来事を経験した人がいます。その人が、その後に風邪のウイルスにさらされたとき、実際に風邪を発症するリスクが、約2倍(オッズ比1.99)高くなりました。心と体がどれほど強くつながっているかを、この一連の研究は示しています。次のレッスンでは、このようなストレスに、どう対処すればよいのかを見ていきます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
ジョブ・ストレインとは、仕事の要求が高く、自分で決められることが少ない状態のことです。心臓の病気のリスクを高めることが知られています。
冠動脈性心疾患とは、心臓に血液を送る血管(冠動脈)が詰まることで起こる、心臓の病気のことです。
糖質コルチコイド抵抗性とは、免疫細胞がコルチゾールの働きに反応しにくくなり、炎症を抑えにくくなる状態のことです。
出典
- Kivimäki, M., Nyberg, S. T., Batty, G. D., et al. (2012). Job strain as a risk factor for coronary heart disease: a collaborative meta-analysis of individual participant data. The Lancet, 380(9852), 1491-1497.
- Gouin, J. P., Kiecolt-Glaser, J. K., Malarkey, W. B., & Glaser, R. (2007). The influence of anger expression on wound healing. Brain, Behavior, and Immunity.
- Kiecolt-Glaser, J. K., Glaser, R., Gravenstein, S., Malarkey, W. B., & Sheridan, J. (1996). Chronic stress alters the immune response to influenza virus vaccine in older adults. Proceedings of the National Academy of Sciences, 93(7), 3043-3047.
- Cohen, S., Janicki-Deverts, D., Doyle, W. J., et al. (2012). Chronic stress, glucocorticoid receptor resistance, inflammation, and disease risk. Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(16), 5995-5999.
LESSON 14-4 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. キヴィマキらの2012年の研究によると、ジョブ・ストレインは心臓の病気のリスクをどの程度高めますか。
- 約23%高める
- 約200%高める
- リスクに変化はない
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正解: 1. 約23%高める
19万7,473人を対象にした分析によると、ジョブ・ストレインがある人は、心臓の病気になるリスクが約23%(ハザード比1.23)高いという結果でした。
Q2. グーアンらの2007年の論文によると、認知症を介護している女性の傷の治りは、介護をしていない人に比べてどうでしたか。
- 平均24%長くかかった
- 変化はなかった
- むしろ早く治った
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正解: 1. 平均24%長くかかった
介護による慢性的なストレスにより、傷が治るまでの時間が平均24%長くかかったと報告されています。
Q3. コーエンらの2012年の研究が説明する「糖質コルチコイド抵抗性」とは、どのような状態ですか。
- 免疫細胞がコルチゾールの働きに反応しにくくなり、炎症を抑えにくくなる状態
- 体内のコルチゾールが完全になくなる状態
- ワクチンの効果が通常より強くなる状態
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正解: 1. 免疫細胞がコルチゾールの働きに反応しにくくなり、炎症を抑えにくくなる状態
糖質コルチコイド抵抗性とは、ストレスが続くことで免疫細胞がコルチゾールの働きに反応しにくくなり、炎症を適切に抑えられなくなる状態のことです。
レッスン14-4はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。