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第16章 心理療法と支援 ・ レッスン16-3心の不調に薬物療法はどう使われるのか
読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- 薬物療法と心理療法の違いを説明できる
- 抗うつ薬(SSRI)がどのように働き、なぜ効果に数週間かかるのかを説明できる
- 薬物療法と心理療法を組み合わせることの効果を、メタ分析の結果をもとに説明できる
要点
- 薬物療法とは、脳内の神経伝達物質などに作用する薬を用いて、心の不調の症状を和らげようとする、生物学的な治療法のことです。
- 代表的な抗うつ薬であるSSRIはセロトニンの働きに、抗精神病薬はドーパミンD2受容体に作用しますが、抗うつ薬の効果が現れるまでには数週間かかります。
- うつ病の治療では、薬物療法と心理療法を組み合わせることが、どちらか一方だけよりも効果的であることが、大規模なメタ分析で確かめられています。
01薬物療法とは何か
薬物療法とは、脳内の神経伝達物質などに作用する薬を用いて、心の不調の症状を和らげようとする、生物学的な治療法のことです。
これまでのレッスンで見てきた心理療法は、言葉によるやり取りや治療関係を通じて心の不調を和らげようとする立場でした。これに対し薬物療法とは、脳内の神経伝達物質の働きなどに作用する薬を用いて、症状を和らげようとする治療法のことです。
薬物療法は、精神科医による診断のもとで処方され、うつ病・不安症・統合失調症など、さまざまな心の不調に対して使われます。この章では代表的な2種類の薬、抗うつ薬と抗精神病薬を取り上げ、それぞれがどのように働くのかを見ていきます。
02抗うつ薬はどう働くのか
抗うつ薬の代表的なタイプであるSSRIは、脳内のセロトニンがシナプスに留まる量を増やすことで働きますが、効果が現れるまでには数週間かかります。
2005年に専門誌Cell Signalingに発表された、テイラーらの総説論文によると、代表的な抗うつ薬の1つであるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、神経伝達物質であるセロトニンがシナプス(神経細胞同士のつなぎ目)に留まる量を増やすことで働きます。
興味深いことに、この論文は、抗うつ薬の臨床的な効果が現れるまでに数週間かかると指摘しています。セロトニンの量自体はすぐに変化するにもかかわらず効果が遅れて現れることから、テイラーらは、神経新生のような、脳の構造が時間をかけて変化していく適応的な過程が、効果の背景にある可能性を挙げています。
03抗精神病薬とドーパミン仮説
抗精神病薬とは、1950年代に登場したクロルプロマジンに始まる薬で、化学構造は多様でも、共通してドーパミンD2受容体を遮断することで働きます。
2016年に専門誌Current Topics in Medicinal Chemistryに発表された、リーらの総説論文によると、最初の抗精神病薬であるクロルプロマジンは1950年代に登場しました。その後60年余りの間に、数多くの抗精神病薬が開発され、市場に出されてきました。
リーらの論文は、これらの抗精神病薬が、化学構造こそ多様であるものの、共通してドーパミンD2受容体を遮断するという、似通った薬理作用を持つと説明しています。論文はまた、統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想など)が、脳内の特定の経路でのドーパミン系の働きすぎと関連していると述べています。
04薬と心理療法を組み合わせる
うつ病の治療では、薬物療法と心理療法を組み合わせることが、どちらか一方だけよりも効果的であることが、大規模なメタ分析で確かめられています。
2020年に専門誌World Psychiatryに発表された、カイパースらのメタ分析は、101件の無作為化比較試験、合計1万1910人の参加者のデータをまとめて分析しました。その結果、治療終了時点で症状が改善した割合は、薬物療法と心理療法を組み合わせた治療の方が、心理療法単独や薬物療法単独よりも高いことが示されました。
同じメタ分析は、心理療法単独と薬物療法単独の間には、はっきりとした差が見られなかったとも報告しています。カイパースらは、うつ病の短期的な治療においては、薬物療法と心理療法を組み合わせる方が、どちらか一方だけよりも効果的であると結論づけています。次のレッスンでは、心理療法そのものの効果について、さらに詳しく見ていきます。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
薬物療法とは、脳内の神経伝達物質などに作用する薬を用いて、心の不調の症状を和らげようとする治療法のことです。
抗うつ薬とは、脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の働きに作用することで、うつ病などの症状を和らげる薬のことです。
抗精神病薬とは、ドーパミンD2受容体を遮断することで、統合失調症などの症状を和らげる薬のことです。
ドーパミン仮説とは、統合失調症の陽性症状が、脳内の特定の経路でのドーパミン系の働きすぎと関連しているとする考え方のことです。
出典
- Taylor, C., Fricker, A. D., Devi, L. A., & Gomes, I. (2005) "Mechanisms of Action of Antidepressants: From Neurotransmitter Systems to Signaling Pathways," Cellular Signalling, 17(5), 549–557.
- Li, P., Snyder, G. L., & Vanover, K. E. (2016) "Dopamine Targeting Drugs for the Treatment of Schizophrenia: Past, Present and Future," Current Topics in Medicinal Chemistry, 16(29), 3385–3403.
- Cuijpers, P., Noma, H., Karyotaki, E., Vinkers, C. H., Cipriani, A., & Furukawa, T. A. (2020) "A Network Meta-Analysis of the Effects of Psychotherapies, Pharmacotherapies and Their Combination in the Treatment of Adult Depression," World Psychiatry, 19(1), 92–107.
LESSON 16-3 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. 抗うつ薬の効果について、テイラーらの総説論文が指摘していることはどれか。
- 臨床的な効果が現れるまでに数週間かかる
- 服用した直後に効果が現れる
- セロトニンの量とは無関係に効果が生じる
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正解: 1. 臨床的な効果が現れるまでに数週間かかる
テイラーらの論文は、抗うつ薬の臨床的な効果が現れるまでに数週間かかり、脳の適応的な変化が関係している可能性を指摘しています。
Q2. リーらの総説論文によると、さまざまな抗精神病薬に共通する薬理作用は何か。
- ドーパミンD2受容体の遮断
- セロトニンの再取り込み阻害
- GABA受容体の活性化
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正解: 1. ドーパミンD2受容体の遮断
リーらの論文は、抗精神病薬が化学構造は多様でも、共通してドーパミンD2受容体を遮断すると説明しています。
Q3. カイパースらの2020年のメタ分析で、うつ病の治療についてわかったことはどれか。
- 薬物療法と心理療法を組み合わせた治療が、どちらか一方だけよりも効果的だった
- 心理療法単独の方が、組み合わせた治療よりも効果的だった
- 薬物療法は心理療法より明らかに効果が高かった
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正解: 1. 薬物療法と心理療法を組み合わせた治療が、どちらか一方だけよりも効果的だった
カイパースらのメタ分析は、薬物療法と心理療法を組み合わせた治療が、心理療法単独や薬物療法単独よりも効果的だったと報告しています。
レッスン16-3はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。