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第16章 心理療法と支援 ・ レッスン16-1

心理療法にはどんな立場があるのか

読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02

このレッスンの学習目標

要点

  1. 心理療法とは、言葉によるやり取りや治療的な関係を通じて、心の不調や悩みを和らげることを目指す、専門的な支援のことです。
  2. 心理療法には、無意識に注目する精神分析・精神力動的アプローチ、学習の仕組みに注目する行動療法、クライアントの成長する力を重視する人間性心理学など、複数の立場があります。
  3. それぞれの立場は、強調する点も効果の実証のされ方も異なります。次のレッスンで扱う認知行動療法は、行動療法と、ものの考え方に注目する認知療法を組み合わせた立場です。

01心理療法とは何か

心理療法とは、言葉によるやり取りや治療的な関係を通じて、心の不調や悩みを和らげることを目指す、専門的な支援のことです。

心理療法という言葉は、臨床心理士や公認心理師、精神科医などの専門家が、言葉によるやり取りや治療的な関係を通じて、心の不調や生きづらさを和らげようとする営み全体を指します。この章では、代表的な「立場」ごとに、心理療法がどのような考え方に基づいているかを順番に見ていきます。

心理療法の立場は一つではありません。同じ「不安を和らげたい」という目標でも、精神分析のように無意識に注目する立場もあれば、行動療法のように学習の仕組みに注目する立場、人間性心理学のようにクライアント本人が持つ成長する力に注目する立場もあります。次のレッスンで扱う認知行動療法は、このうち行動療法と、ものの考え方に注目する認知療法を組み合わせた立場です。

02精神分析と精神力動的アプローチ

精神分析とは、フロイトが創始した、無意識の葛藤に注目して心の不調を理解しようとする立場のことですが、現代の精神医学では実証的な裏付けの乏しさが指摘されています。

精神分析とは、オーストリアの精神科医フロイトが創始した、無意識の中にある葛藤や欲求が、心の不調や症状に影響するという考え方に基づく治療法のことです。フロイト以降に発展した、精神分析を元にする立場は精神力動的アプローチと呼ばれ、現在まで発展を続けています。

ただし、精神分析には批判も少なくありません。2017年にカナダのマギル大学のポール・パリスが専門誌The Canadian Journal of Psychiatryに発表した論文は、フロイトの心の発達モデルが、その後の幅広い研究によって異議を唱えられ、反証されてきたと指摘しています。パリスはまた、精神分析の理論が一世紀以上かけても十分な実証的裏付けを得られていない点を、現代の精神医学が抱える課題として挙げています。

一方で同じ論文は、精神分析そのものと、より短期間で行う精神力動的な心理療法とを区別しています。短期の精神力動的療法については一定の効果研究の裏付けがあるとされ、全ての精神力動的な立場が同じように評価されているわけではありません。

03行動療法(ウォルピとスキナー)

行動療法とは、問題となる行動も通常の行動と同じ学習の原理で身につくという考えに基づき、不安や恐怖を段階的な学習によって和らげようとする立場のことです。

行動療法とは、問題となる行動も、望ましい行動と同じ学習の原理によって身につく、という考え方に基づく立場のことです。2018年に専門誌Psychologica Belgicaに掲載された、ベルギーの心理学者ポール・エーレンの論文によると、行動療法は、実験心理学で明らかになった学習の原理を、治療の場面に応用しようとする試みとして発展してきました。

行動療法の発展に大きな影響を与えた人物の1人が、南アフリカ出身の精神科医ジョセフ・ウォルピです。エーレンの論文によると、ウォルピは、恐怖条件づけについての動物実験をもとに、1958年の著書『相互抑制による心理療法』で、弱い刺激から段階的に慣れさせていく「系統的脱感作」という技法を発表しました。

もう1人の重要人物が、アメリカの心理学者B・F・スキナーです。スキナーが発展させた、行動の結果によってその後の行動の頻度が変わるという「オペラント条件づけ」の考え方は、第6章ですでに確認したとおりです。エーレンの論文は、スキナーが「行動療法」という言葉を最初に使った人物の1人でもあったと述べています。

04人間性心理学(ロジャーズ)

人間性心理学とは、クライアント自身が持つ成長する力を信頼し、共感・無条件の肯定的関心・一致という治療関係の質を重視する立場のことです。

人間性心理学とは、クライアント自身の中にある、成長し自分らしく生きようとする力を信頼する立場のことです。代表的な提唱者であるアメリカの心理学者カール・ロジャーズは、技法そのものよりも、セラピストとクライアントの関係の質が、心の変化を生み出すと考えました。

2025年に専門誌Journal of Child and Family Studiesに発表された、クーパーらの研究によると、ロジャーズは関係的な要因こそが良い変化が起きるために必要かつ十分であると主張し、これが人間性心理学に基づく心理療法の土台になっています。この研究は、セラピストが「友好的で温かい」こと(参加者の92%が有益と回答)、「否定せず無条件に受け入れる」こと(88%)などを、若者が実際に役立ったと感じた要素として報告しています。

人間性心理学が重視する共感・無条件の肯定的関心・一致という3つの要素は、特定の技法というより、治療関係そのものの質を表しています。この考え方は、後のレッスンで見る心理療法の効果研究にも影響を与えています。

KEYWORDSキーワード(日本語・英語)

このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。

精神分析Psychoanalysis

精神分析とは、フロイトが創始した、無意識の葛藤や欲求が心の不調に影響するという考え方に基づく治療法のことです。

精神力動的アプローチPsychodynamic approach

精神力動的アプローチとは、精神分析から派生した、無意識や人間関係のパターンに注目する心理療法の立場のことです。

行動療法Behavior therapy

行動療法とは、問題となる行動も通常の行動と同じ学習の原理で身につくという考え方に基づく、心理療法の立場のことです。

系統的脱感作Systematic desensitization

系統的脱感作とは、弱い刺激から段階的に慣れさせることで、不安や恐怖を和らげる行動療法の技法のことです。

人間性心理学Humanistic psychology

人間性心理学とは、クライアント自身が持つ成長する力を信頼し、治療関係の質を重視する心理療法の立場のことです。

出典

  1. Paris, J. (2017) "Is Psychoanalysis Still Relevant to Psychiatry?," The Canadian Journal of Psychiatry, 62(5), 308–312.
  2. Eelen, P. (2018) "Behaviour Therapy and Behaviour Modification: Background and Development," Psychologica Belgica, 58(1), 184–195.
  3. Cooper, M. et al. (2025) "Humanistic Therapy for Young People: Client-Perceived Helpful Aspects, Hindering Aspects, and Processes of Change," Journal of Child and Family Studies, 34(3), 686–705.

LESSON 16-1 の仕上げ

確認クイズ(全3問)

学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。

Q1. フロイトが創始した精神分析について、2017年の専門誌の論文はどう指摘しているか。
  1. フロイトの心の発達モデルは、その後の研究で異議を唱えられてきた
  2. 精神分析は現在、もっとも実証的な裏付けが強い心理療法とされている
  3. 精神分析は行動療法から派生した立場である
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正解: 1. フロイトの心の発達モデルは、その後の研究で異議を唱えられてきた
2017年にポール・パリスが専門誌The Canadian Journal of Psychiatryに発表した論文は、フロイトの心の発達モデルが幅広い研究によって異議を唱えられ、反証されてきたと指摘しています。

Q2. ウォルピが1958年の著書で発表した、不安を段階的に和らげる技法は何か。
  1. 系統的脱感作
  2. 自由連想法
  3. オペラント条件づけ
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正解: 1. 系統的脱感作
ウォルピは1958年の著書『相互抑制による心理療法』で、弱い刺激から段階的に慣れさせていく系統的脱感作という技法を発表しました。

Q3. ロジャーズが唱えた、人間性心理学に基づく心理療法で重視される要素はどれか。
  1. 共感・無条件の肯定的関心・一致
  2. 解釈・転移・自由連想
  3. 強化・消去・般化
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正解: 1. 共感・無条件の肯定的関心・一致
ロジャーズは、共感・無条件の肯定的関心・一致という治療関係の質こそが、良い変化を生み出す土台になると考えました。

レッスン16-1はここまでです

クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。

第16章 心理療法と支援 のレッスン一覧
  1. 16-1心理療法の4つの立場
  2. 16-2認知行動療法とは
  3. 16-3薬物療法の基本
  4. 16-4心理療法の効果
  5. 16-5相談先の選び方

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