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第16章 心理療法と支援 ・ レッスン16-4心理療法は本当に効果があるのか
読む時間の目安: 5分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- アイゼンクが1950年代に示した、心理療法の効果への懐疑的な主張を説明できる
- スミスとグラスの1977年のメタ分析が示した結果と、現代の再分析との違いを説明できる
- 心理療法の効果に関わる「共通要因」という考え方を説明できる
要点
- 心理療法の効果とは、治療を受けた人が、受けなかった人より症状が改善するかどうかで測られるものですが、その大きさをめぐっては1950年代から議論が続いてきました。
- 1977年のスミスとグラスのメタ分析は、心理療法を受けた患者が明らかに改善していたと報告しましたが、2018年の再分析では、出版バイアスなどを補正すると効果の大きさはより小さくなることが示されました。
- ワンポルドの研究によると、心理療法の効果には、特定の技法よりも、治療同盟や共感といった様々な立場に共通する要因が大きく関わっています。
01アイゼンクの懐疑論
心理学者アイゼンクは1950年代に、心理療法を受けた患者の改善は、治療を受けなくても自然に良くなる「自然寛解」と区別できないという懐疑的な主張を示しました。
心理療法に効果があるかどうかは、昔から議論の対象になってきました。2018年に専門誌Epidemiology and Psychiatric Sciencesに発表された、カイパースらの論文によると、イギリスの心理学者ハンス・アイゼンクは1950年代に、心理療法はまったく効果がないかもしれないと主張しました。
カイパースらの論文は、アイゼンクの主張を次のようにまとめています。心の不調を抱える患者の多くは、心理療法を受けるかどうかにかかわらず、いずれ自然に良くなる(自然寛解)。だから心理療法を受けた患者が良くなったとしても、それが心理療法そのものの効果なのか、自然な回復なのかを区別できない、というものです。
02スミスとグラスの1977年のメタ分析
心理学者スミスとグラスは1977年、400件の対照試験・約5万人分のデータをまとめて分析し、心理療法を受けた患者は受けなかった患者より明らかに改善していたと報告しました。
アイゼンクの主張に対する1つの回答が、1977年にアメリカの心理学者ジーン・グラスとメアリー・リー・スミスが発表した研究です。カイパースらの論文によると、2人は心理療法に関する400件の対照試験、約5万人分のデータをまとめて統計的に分析しました。
その結果、効果の大きさを表す指標であるd値は0.68でした。カイパースらの論文は、この結果が、心理療法を受けた平均的な患者が、治療を受けなかった人の75%よりも良い状態にあったことを意味すると説明しています。この研究は、心理療法に効果があるという立場を支持する、大きな根拠になりました。
03現代における見直し
2018年のカイパースらの再分析は、出版バイアスなどを補正すると、心理療法の効果の大きさは、当初考えられていたより小さい可能性があると報告しています。
ただし、効果の大きさについての見方は、その後も見直されています。カイパースらは2018年の論文で、うつ病に対する心理療法の効果を、現代の統計的な手法を使って再分析しました。すべての研究をそのまま合わせた場合の効果の大きさはg値で0.70でしたが、質の低い研究を除き、出版バイアス(効果が出た研究ほど発表されやすい偏り)を補正すると、効果の大きさはg値で0.31まで下がりました。
カイパースらは、この結果について、心理療法に効果がないとまでは言えないものの、効果の大きさは小さく、当初考えられていたほど大きくはない可能性があると結論づけています。同時に、すべての種類のバイアスを補正しきれたわけではなく、確実な結論ではないとも述べています。
04なぜ効果があるのか。共通要因という考え方
心理学者ワンポルドは、特定の技法の違いよりも、治療同盟や共感といった、様々な立場に共通する要因が、心理療法の効果に大きく関わっていると報告しています。
では、心理療法が効果を持つとして、その効果はどこから生まれるのでしょうか。2015年に専門誌World Psychiatryに発表された、ワンポルドの論文は、特定の技法の違いよりも、様々な立場に共通する要因(共通要因)が、効果の背景にあると論じています。
ワンポルドの論文によると、心理療法どうしを比較したメタ分析は、たいてい、立場の違いによる効果の差はd値でおよそ0.20程度にとどまると報告しています。一方、セラピストとクライアントの治療同盟(d=0.57)、共感(d=0.63)、目標の一致(d=0.72)といった共通要因は、より大きな効果と関連していました。
この考え方は、「みんなが勝者で、全員が賞をもらう」という意味から「ドードー鳥の評決」とも呼ばれます。どの立場の心理療法を選ぶかよりも、信頼できるセラピストとの関係を築けるかどうかが、効果にとって重要だという見方です。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
自然寛解とは、治療を受けなくても、心の不調の症状が時間の経過とともに自然に軽くなることのことです。
出版バイアスとは、効果が見られた研究の方が、効果が見られなかった研究よりも発表されやすいという偏りのことです。
共通要因とは、治療同盟や共感など、心理療法の立場の違いを超えて共通する、効果に関わる要素のことです。
ドードー鳥の評決とは、様々な心理療法の立場の間で、効果に大きな差がないとする考え方のことです。
出典
- Cuijpers, P., Karyotaki, E., Reijnders, M., & Ebert, D. D. (2018) "Was Eysenck Right After All? A Reassessment of the Effects of Psychotherapy for Adult Depression," Epidemiology and Psychiatric Sciences, 28(1), 21–30.
- Wampold, B. E. (2015) "How Important Are the Common Factors in Psychotherapy? An Update," World Psychiatry, 14(3), 270–277.
LESSON 16-4 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. アイゼンクが1950年代に示した、心理療法への懐疑的な主張はどれか。
- 心理療法を受けた患者の改善は、自然寛解と区別できない
- 心理療法はどんな心の不調にも、薬物療法より効果的である
- 心理療法の効果は、技法の違いによってのみ決まる
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正解: 1. 心理療法を受けた患者の改善は、自然寛解と区別できない
アイゼンクは、心理療法を受けた患者の改善が、治療を受けなくても自然に良くなる自然寛解と区別できないと主張しました。
Q2. スミスとグラスの1977年のメタ分析が報告した結果はどれか。
- 心理療法を受けた患者は、受けなかった患者の75%よりも良い状態にあった
- 心理療法に効果があるという証拠は見つからなかった
- 心理療法の効果は、薬物療法よりも明らかに劣っていた
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正解: 1. 心理療法を受けた患者は、受けなかった患者の75%よりも良い状態にあった
スミスとグラスの分析は、d値0.68という結果を示し、心理療法を受けた平均的な患者が未治療群の75%よりも良い状態にあったことを意味しました。
Q3. ワンポルドの論文によると、心理療法の効果に強く関わっている要因はどれか。
- 治療同盟や共感といった共通要因
- 特定の心理療法の立場の違いだけ
- セラピストの資格の種類だけ
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正解: 1. 治療同盟や共感といった共通要因
ワンポルドの論文は、立場の違いによる効果の差は小さく、治療同盟や共感などの共通要因がより大きな効果と関連していたと報告しています。
レッスン16-4はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。