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第16章 心理療法と支援 ・ レッスン16-5心の不調で困ったとき、どこに相談すればよいのか
読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-02
このレッスンの学習目標
- 日本における心の不調の治療率の低さを、調査データをもとに説明できる
- 相談をためらう要因として、スティグマや相談先の認知度の低さがあることを説明できる
- 心の不調で困ったときに相談できる、医療機関や公的な窓口を挙げることができる
要点
- 治療ギャップとは、心の不調を経験している人のうち、実際に専門的な治療を受けている人の割合が低いことのことです。日本でもこのギャップが確認されています。
- 日本では、心の不調へのスティグマや、相談先そのものを知らないことが、相談への障壁になっていると、複数の調査が報告しています。
- 効果が確かめられた認知行動療法でさえ認知度が低いのが実情ですが、気分の落ち込みや強い不安が続くときは、医療機関や公的な相談窓口に相談することができます。
01日本では、心の不調があっても相談しない人が多い
日本では、12か月以内に心の不調を経験した人のうち、実際に治療を受けていたのは21.9%にとどまるという調査結果があります。
2015年に専門誌Epidemiology and Psychiatric Sciencesに発表された、石川らの論文は、世界精神保健日本調査のデータを分析しました。この調査によると、過去12か月以内に何らかの心の不調を経験した人の割合は7.6%でした。
ところが、同じ調査で心の不調を経験した人のうち、過去12か月以内に実際に治療を受けていたのはわずか21.9%でした。つまり、調査対象となった人の多くは、心の不調を経験していても、専門的な治療にたどり着いていなかったことになります。このような、不調を経験している人の割合と、実際に治療を受けている人の割合の差は、治療ギャップと呼ばれます。
02なぜ相談をためらうのか
2023年の調査によると、気軽に相談できる場所を知っていると答えた人は、心が健康な人で6.2%、うつ病の患者でも30.8%にとどまりました。
2023年に専門誌Frontiers in Psychiatryに発表された、内野らの論文は、日本における心の不調への偏見(スティグマ)が、欧米の国々よりも強いと指摘しています。スティグマは、心の不調そのものだけでなく、相談する行動自体への抵抗感も強めます。
内野らの調査では、気軽に心の悩みを話せる場所を知っていると答えた人は、心が健康な人でわずか6.2%、うつ病の診断を受けた患者でも30.8%にとどまりました。この結果は、スティグマだけでなく、どこに相談すればよいかという知識そのものが不足していることも、相談への障壁になっていることを示しています。
03効果が確かめられた治療法も、知られていない
認知行動療法は2010年から公的医療保険の対象になっていますが、2025年の調査では回答者の62.2%が、この治療法を聞いたことすらないと答えています。
この章の前のレッスンで見た認知行動療法(CBT)は、効果が実証された治療法として世界的に広がっていますが、日本での認知度は高くありません。2025年に専門誌PCN Reportsに発表された、原口の調査によると、回答者の62.2%がCBTという言葉を聞いたことがなく、意味のある認知や経験があると答えた人は13.1%にとどまりました。
さらにこの調査は、自分の心の健康状態を「よくない」「あまりよくない」と答えた人が、CBTへの認知や経験について、他の人と比べて特に高いわけではなかったとも報告しています。効果が確かめられた治療法ほど、本来それを必要とする人に届いていない可能性があります。
04実際にどこに相談すればよいか
気分の落ち込みや強い不安が長く続き、生活に支障が出ていると感じたときは、医療機関(精神科・心療内科)や、地域の精神保健福祉センターなどの公的な相談窓口に相談することができます。
ここまで見てきたように、心の不調があっても、知識やスティグマの壁によって、相談にたどり着けない人は少なくありません。しかし、この章で見てきた心理療法や薬物療法は、実際に効果が確かめられてきた治療法です。一人で抱え込む必要はありません。
気分の落ち込みや強い不安が長く続き、仕事や生活に支障が出ていると感じたときは、医療機関(精神科・心療内科)を受診したり、お住まいの地域の精神保健福祉センターなどの公的な相談窓口に相談したりすることができます。これで、この講座「ゼロから学ぶ心理学入門」の全16章が完結です。心理学への興味を、ここからさらに広げていってください。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
治療ギャップとは、心の不調を経験している人のうち、実際に専門的な治療を受けている人の割合が低いことのことです。
スティグマとは、心の不調がある人に対する、否定的な決めつけや偏見のことです。
援助希求行動とは、心の不調や悩みを感じたときに、専門家や周囲の人に助けを求める行動のことです。
出典
- Ishikawa, H., Kawakami, N., Kessler, R. C., et al. (2015) "Lifetime and 12-Month Prevalence, Severity and Unmet Need for Treatment of Common Mental Disorders in Japan: Results from the Final Dataset of World Mental Health Japan Survey," Epidemiology and Psychiatric Sciences, 25(3), 217–229.
- Uchino, T., Fukui, E., Takubo, Y., et al. (2023) "Perceptions and Attitudes of Users and Non-Users of Mental Health Services Concerning Mental Illness and Services in Japan," Frontiers in Psychiatry, 14, 1138866.
- Haraguchi, T. (2025) "Bridging the Service Gap in Cognitive Behavioral Therapy from a User Perspective: Findings from a Web-Based Survey in Japan," PCN Reports, 4(4), e70240.
LESSON 16-5 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. 石川らの2015年の調査で、日本において12か月以内に心の不調を経験した人のうち、実際に治療を受けていた割合はどれくらいだったか。
- 約22%
- 約50%
- 約80%
答えを見る
正解: 1. 約22%
石川らの論文によると、12か月以内に心の不調を経験した人のうち、実際に治療を受けていたのは21.9%でした。
Q2. 内野らの2023年の調査で明らかになったことはどれか。
- 気軽に相談できる場所を知っている人は、うつ病患者でも3割程度にとどまった
- 日本ではスティグマがほとんど見られなかった
- 相談先を知っている割合は、心が健康な人の方がうつ病患者より高かった
答えを見る
正解: 1. 気軽に相談できる場所を知っている人は、うつ病患者でも3割程度にとどまった
内野らの調査では、気軽に相談できる場所を知っていると答えた人は、うつ病患者でも30.8%にとどまりました。
Q3. 原口の2025年の調査で、認知行動療法(CBT)について明らかになったことはどれか。
- 回答者の6割以上が、CBTという言葉を聞いたことがなかった
- 回答者のほとんどがCBTを実際に受けたことがあった
- 自分の心の健康状態が悪いと答えた人ほど、CBTをよく知っていた
答えを見る
正解: 1. 回答者の6割以上が、CBTという言葉を聞いたことがなかった
原口の調査では、回答者の62.2%がCBTという言葉を聞いたことがないと答えました。
レッスン16-5はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。