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第3章 脳と心 ・ レッスン3-5

脳は経験で変わるのか。神経可塑性とは何か

読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-01

このレッスンの学習目標

要点

  1. 神経可塑性とは、脳の構造や働きが、経験や訓練によって変化する性質のことです。
  2. 2000年に発表された研究では、ロンドンのタクシー運転手16名の海馬の一部が、一般の人より大きく、運転手歴の長さと相関していたことが示されました。
  3. 2009年に発表された研究では、健康な成人がわずか6週間ジャグリングを練習しただけでも、脳の白質と灰白質に変化が見られたことが報告されています。

01脳は一生変わらないのか

神経可塑性とは、脳の構造や働きが経験や訓練によって変化する性質のことです。

かつて脳は、成人になるとほとんど変化しない臓器だと考えられていました。しかし近年の研究では、脳の構造が経験や訓練に応じて変化することがわかってきました。この性質を神経可塑性と呼びます。

神経可塑性は、生まれつきの性質と環境のどちらか一方だけで心や能力が決まるのではない、ということを示す手がかりでもあります。同じ経験を積み重ねても、脳のどこがどう変化するのかを調べることで、その経験が脳にとってどんな意味を持つのかが見えてきます。

神経可塑性を示す代表的な研究の1つが、ロンドンのタクシー運転手を対象にした海馬の研究です。

02タクシー運転手の海馬は大きいのか

ロンドンのタクシー運転手は、海馬の後方部分が一般の人より大きく、運転手歴の長さとも関係していました。

2000年に発表された研究では、ロンドンの道を熟知した右利きの男性タクシー運転手16名(平均年齢44歳)の脳をMRIで調べ、運転をしない人たちと比較しました。ロンドンのタクシー運転手になるには、複雑な道筋を覚える試験に合格する必要があります。 ロンドンの道を覚える訓練は「ザ・ナレッジ」と呼ばれ、資格試験に合格するまでにかかる期間は平均で2年、短い人で10か月、長い人では3年半ほどだったと記録されています。

分析の結果、タクシー運転手は、記憶に関わる海馬のうち後方の部分が、比較対象の人たちより有意に大きいことがわかりました。逆に海馬の前方部分は、比較対象の人たちのほうが大きいという結果でした。

さらに、タクシー運転手としての経験年数が長い人ほど、海馬の後方部分が大きい傾向(相関係数0.6程度)が見られました。道を覚えるという経験が、脳の特定の部位の構造と関係していることを示す結果です。

03わずか6週間の練習でも、脳は変わる

健康な成人が6週間ジャグリングを練習しただけでも、脳の白質と灰白質に変化が見られました。

タクシー運転手の研究は、長年の経験による脳の変化を示すものでした。では、もっと短い期間の練習でも、脳は変化するのでしょうか。2009年に発表された研究は、この問いを調べました。

研究チームは、健康な成人48名を2つのグループに分け、一方のグループには6週間、ジャグリングを練習してもらい、その後4週間は練習をしない期間を設けました。脳をMRIで調べたところ、訓練を行ったグループでは、頭頂葉に近い部分の白質と、視覚や空間の処理に関わる灰白質の両方に、訓練に関連した変化が見られました。

この研究を発表した研究チームは、健康な成人の脳において、経験に応じて白質の微細な構造が変化することを示した初めての証拠だとしています。これらの研究は、脳が子どものときだけでなく、大人になってからも、経験や訓練に応じて構造を変化させうることを示しています。何かを練習して身につけるという私たちの日々の経験は、脳という臓器そのものにも影響を与えているのです。

KEYWORDSキーワード(日本語・英語)

このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。

神経可塑性Neuroplasticity

脳の構造や働きが、経験や訓練によって変化する性質。

灰白質Grey Matter

脳の表面近くにある、神経細胞の細胞体が集まった部分。

白質White Matter

脳の内部にある、神経線維が集まり情報の通り道となる部分。

出典

  1. Maguire, E. A., Gadian, D. G., Johnsrude, I. S., Good, C. D., Ashburner, J., Frackowiak, R. S., & Frith, C. D. (2000). Navigation-Related Structural Change in the Hippocampi of Taxi Drivers. Proceedings of the National Academy of Sciences, 97(8), 4398-4403.
  2. Scholz, J., Klein, M. C., Behrens, T. E. J., & Johansen-Berg, H. (2009). Training Induces Changes in White Matter Architecture. Nature Neuroscience, 12(11), 1370-1371.

LESSON 3-5 の仕上げ

確認クイズ(全3問)

学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。

Q1. 神経可塑性とは何ですか。
  1. 脳の構造や働きが、経験や訓練によって変化する性質
  2. 脳の大きさが生まれつき決まっていて一生変わらない性質
  3. 脳の左右の働きがまったく同じである性質
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正解: 1. 脳の構造や働きが、経験や訓練によって変化する性質
神経可塑性とは、脳が経験や訓練に応じて構造や働きを変化させる性質のことです。

Q2. 2000年のタクシー運転手の研究でわかったことはどれですか。
  1. 海馬の後方部分が、運転手歴の長さと関係して大きくなっていた
  2. タクシー運転手の脳の大きさは、一般の人とまったく同じだった
  3. 海馬はタクシー運転手だけが持つ特別な部位だった
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正解: 1. 海馬の後方部分が、運転手歴の長さと関係して大きくなっていた
タクシー運転手の海馬後方部分は、運転手としての経験年数と関係して大きくなっていました。

Q3. 2009年のジャグリングの研究から、どんなことがわかりますか。
  1. わずか6週間の練習でも、脳の白質・灰白質に変化が見られることがある
  2. 脳の変化には、少なくとも10年以上の練習が必要である
  3. ジャグリングの練習は、脳にまったく影響を与えない
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正解: 1. わずか6週間の練習でも、脳の白質・灰白質に変化が見られることがある
6週間のジャグリング練習後、脳の白質・灰白質に訓練に関連した変化が見られました。

レッスン3-5はここまでです

クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。

第3章 脳と心 のレッスン一覧
  1. 3-1なぜ脳を学ぶのか
  2. 3-2ニューロンの情報伝達
  3. 3-3脳の部位のはたらき
  4. 3-4脳を調べる方法
  5. 3-5脳は経験で変わるか

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