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第3章 脳と心 ・ レッスン3-4脳の働きをどうやって調べるのか。損傷と分離脳の研究から
読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-01
このレッスンの学習目標
- 脳損傷の事例から脳の働きを調べる方法を説明できる
- フィニアス・ゲージの事故でどの部位がどの程度損傷したかを説明できる
- 分離脳の研究から、左右の脳の働きの違いについて何がわかったかを説明できる
要点
- 脳の働きを調べる方法とは、損傷や手術によって特定の部位を失った人を観察し、どの働きが変化したかを手がかりにする方法などのことです。
- 1848年に鉄の棒が頭を貫通したフィニアス・ゲージの事故を2012年に現代の画像データで再現した研究では、灰白質の約4%、白質の約11%が損傷したと推定されています。
- てんかん治療のため脳梁を切断した「分離脳」患者の研究からは、左脳は言語に優れ、右脳は言葉で説明せずに物を認識できることがわかりました。
01脳の働きを、外から確かめる方法
脳の働きを調べる方法の1つは、事故や手術で特定の部位を失った人の変化を観察することです。
脳は頭蓋骨の中にあり、生きている人の脳の働きを直接のぞき見ることはできません。そこで心理学や神経科学では、事故や病気、手術によって脳の特定の部位を失った人を詳しく観察し、どんな働きが変化したかを手がかりにする方法がとられてきました。
この章の前のレッスンで見た患者H.M.の症例も、この方法の一例です。ここでは、歴史上もっとも有名な脳損傷の事例の1つと、脳の手術によって明らかになった、左右の脳の働きの違いについて見ていきます。
02フィニアス・ゲージの事故
1848年、鉄道作業員ゲージの頭を鉄の棒が貫通する事故が起き、現代の研究でその損傷の広がりが再現されています。
1848年9月13日、鉄道建設の作業員だった25歳のフィニアス・ゲージは、爆発事故により、長さ110センチ、直径3.2センチ、重さ13ポンドの鉄の棒が左頬から頭蓋骨を貫通し、頭頂部付近から突き抜けるという大けがを負いました。ゲージは奇跡的に一命をとりとめ、その後12年間生きたことが記録されています。
2012年に発表された研究では、健康な110人分のMRI・拡散画像データを使ってゲージの脳損傷をコンピューター上で再現しました。その結果、大脳皮質(灰白質)の体積の約3.97%、脳の中の情報の通り道である白質の体積の約10.72%が損傷したと推定されました。損傷は左前頭皮質だけでなく、左側頭葉や島皮質にまで広がっていたことも示されています。
鉄の棒が貫通した後、ゲージの性格が変わったという記録が残されていることから、この事例は長く「前頭葉が性格に関わる」ことを示す例として語られてきました。2012年の研究は、この損傷が1つの部位だけでなく、脳の広い範囲のつながりに影響していたことを、現代の技術で示しています。
03脳梁を切った「分離脳」からわかったこと
脳梁を切断した患者の研究から、左脳は言語に優れ、右脳は言葉を介さずに物を認識できることがわかりました。
脳は左右2つの半球に分かれており、その間は脳梁と呼ばれる神経の束でつながっています。重いてんかんの治療のため、この脳梁を切断する手術が行われることがあり、最初の報告は1940年代にさかのぼります。
この手術を受けた患者を対象にした研究から、左右の脳の働きの違いが明らかになりました。2020年に発表された研究のまとめによれば、左脳は言語の働きに優れ、見た物に名前をつけることが得意です。一方、右脳は言葉で説明する力は弱いものの、視覚的な認識は保たれていました。
ある実験では、患者は視野の左側に映った物を「見ていない」と口では答えながら、左手ではその物を正しく指し示すことができました。これは、左右の脳がそれぞれ独立して情報を処理していることを示す、分離脳研究を代表する発見です。
KEYWORDSキーワード(日本語・英語)
このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。
脳の表面近くにある、神経細胞の細胞体が集まった部分。
脳の内部にある、神経線維が集まり情報の通り道となる部分。
左右の大脳半球をつなぐ、神経線維の束。
脳梁を切断する手術を受け、左右の大脳半球のつながりが絶たれた状態。
出典
- Van Horn, J. D., Irimia, A., Torgerson, C. M., Chambers, M. C., Kikinis, R., & Toga, A. W. (2012). Mapping Connectivity Damage in the Case of Phineas Gage. PLoS ONE, 7(5), e37454.
- de Haan, E. H. F., Corballis, P. M., Hillyard, S. A., et al. (2020). Split-Brain: What We Know Now and Why This is Important for Understanding Consciousness. Neuropsychology Review, 30(2), 224-233.
LESSON 3-4 の仕上げ
確認クイズ(全3問)
学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。
Q1. 脳の働きを調べる方法として、この章で取り上げられているものはどれですか。
- 事故や手術で脳の一部を失った人の変化を観察する方法
- 必ずヒトの脳を解剖してから研究する方法
- 本人に性格診断のアンケートだけを行う方法
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正解: 1. 事故や手術で脳の一部を失った人の変化を観察する方法
H.M.やゲージの例のように、脳の一部を失った人の変化を観察することで、その部位の働きを推測できます。
Q2. 2012年の研究が明らかにした、フィニアス・ゲージの脳損傷について、正しいものはどれですか。
- 損傷は左前頭皮質だけでなく、側頭葉や島皮質、白質にも広がっていた
- 損傷は脳のごく一部、灰白質の半分以上に及んだ
- 損傷はまったく確認できなかった
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正解: 1. 損傷は左前頭皮質だけでなく、側頭葉や島皮質、白質にも広がっていた
現代の画像データを使った再現により、損傷が脳の広い範囲に及んでいたことが示されました。
Q3. 分離脳の研究からわかった、左右の脳の働きの違いはどれですか。
- 左脳は言語に優れ、右脳は言葉を介さずに物を認識できる
- 左脳と右脳の働きにはまったく違いがない
- 右脳だけが働き、左脳は使われていない
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正解: 1. 左脳は言語に優れ、右脳は言葉を介さずに物を認識できる
分離脳患者の研究から、左脳は言語、右脳は言葉を介さない視覚認識に優れることがわかりました。
レッスン3-4はここまでです
クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。