HOME / 日常の心理学 / 講座 / 第2章 心理学の研究法 / 心理学の研究倫理

第2章 心理学の研究法 ・ レッスン2-5

研究倫理とは何か。参加者を守るための3つの原則

読む時間の目安: 4分 ・ 公開日 2026-10-01

このレッスンの学習目標

要点

  1. 研究倫理とは、研究に参加する人の心や体、尊厳を守るために、研究者が守るべき指針のことです。
  2. アメリカでは、同意なく治療を行わなかったタスキギー梅毒研究などを背景に、1979年にベルモント・レポートがまとめられ、「人格の尊重」「恩恵」「正義」という3つの原則が示されました。
  3. 心理学の研究でも、参加する前に説明と同意を得るインフォームド・コンセントや、研究後に本当の目的を説明するデブリーフィングなど、参加者を守るための手続きが使われます。

01なぜ研究倫理が必要になったのか

研究倫理は、参加者の同意なく行われた、害のある人体実験の反省から整備されてきました。

研究のために人を対象にすることには、常にリスクがあります。歴史をたどると、参加者の同意なく、害を及ぼす研究が行われてきたことがわかります。

2022年の研究倫理の歴史をまとめた論文によると、1947年、ナチスの医師らを裁いた裁判を受けて、人を対象にした実験には「自発的な同意」が必要だとするニュルンベルク綱領が作られました。1964年には、世界医師会がヘルシンキ宣言を採択し、「恩恵(人に利益をもたらし、害を与えないこと)」の考え方を示しました。

アメリカでは、梅毒にかかった黒人男性数百人を治療せずに放置する研究が、1972年の夏に報道されて発覚するまで、40年にわたって続けられていました(タスキギー梅毒研究)。これが、研究倫理を法律として整備する大きなきっかけになりました。

02ベルモント・レポートの3つの原則

1979年のベルモント・レポートは、人格の尊重、恩恵、正義という3つの原則を示しました。

タスキギー梅毒研究の発覚を受けて、アメリカでは1974年に委員会が設置され、1979年にベルモント・レポートがまとめられました。ここでは、人を対象にした研究が守るべき3つの原則が示されています。

1つ目は人格の尊重です。研究に参加する人を、自分で決める力を持つ存在として扱い、同意を得ることです。2つ目は恩恵です。参加者に害を与えず、利益を大きくすることを目指します。3つ目は正義です。研究の負担と利益を、特定の人々に偏らせないことです。

この3つの原則は、それぞれ具体的な手続きにつながっています。人格の尊重はインフォームド・コンセントに、恩恵はリスクと利益の検討に、正義は参加者の選び方に、それぞれ結びついています。

03心理学の研究で使われる具体的な手続き

心理学の研究では、参加前の説明と同意(インフォームド・コンセント)や、研究後に本当の目的を説明するデブリーフィングなどの手続きが使われます。

インフォームド・コンセントとは、研究の目的や手順、リスクを説明したうえで、参加するかどうかを本人に決めてもらう手続きです。参加はいつでも断ったり、やめたりできることも伝えられます。

心理学の実験の中には、本当の目的を伝えると結果が変わってしまうため、一時的に目的を隠したり、本当とは違う説明をする手法が使われる場合があります。この場合は、研究が終わったあとに、本当の目的や手順を説明するデブリーフィングが必要です。

現在、大学や研究機関では、こうした手続きが守られているかを、研究者以外の人も含む倫理委員会が審査してから、研究を始める決まりになっています。

04研究倫理を知ることの意味

研究倫理を知ることで、研究が参加者を守りながら行われているかを、読む側も確認できるようになります。

この章で学んできた実験法・調査法・観察法は、どれも人を対象にします。どんなに優れた方法でも、参加者の心や体を守る手続きがなければ、使うべきではありません。

研究の記事や論文を読むときに、インフォームド・コンセントやデブリーフィングについて書かれているかを確認する視点を持つと、その研究がどれだけ参加者に配慮して行われたかが見えてきます。

次の章からは、脳の仕組みから心のさまざまな働きまで、具体的なテーマを学んでいきます。ここまでの研究法の知識は、どの章の内容を読むときにも役立ちます。

KEYWORDSキーワード(日本語・英語)

このレッスンで覚えておきたい用語です。英語名も一緒に覚えると、海外の教科書や論文が読みやすくなります。

研究倫理Research ethics

研究に参加する人の心や体、尊厳を守るために、研究者が守るべき指針のこと。

インフォームド・コンセントInformed consent

研究の目的や手順、リスクを説明したうえで、参加するかどうかを本人に決めてもらう手続き。

デブリーフィングDebriefing

研究で目的を隠したり、本当とは違う説明をした場合に、研究後に本当の目的や手順を説明すること。

倫理委員会Institutional Review Board

研究が参加者を守る手続きを満たしているかを、研究開始前に審査する委員会。

出典

  1. Nagai, H., Nakazawa, E., & Akabayashi, A. (2022). The creation of the Belmont Report and its effect on ethical principles: a historical study. Monash Bioethics Review, 40(2), 157-170.
  2. Adashi, E. Y., Walters, L. B., & Menikoff, J. (2018). The Belmont Report at 40: Reckoning With Time. American Journal of Public Health, 108(10), 1345-1348.

LESSON 2-5 の仕上げ

確認クイズ(全3問)

学んだ内容を確かめましょう。答えを見る前に、自分で選んでみてください。

Q1. 1979年のベルモント・レポートが示した3つの原則に含まれないものはどれですか。
  1. 人格の尊重
  2. 恩恵
  3. 効果量
答えを見る

正解: 3. 効果量
3つの原則は、人格の尊重・恩恵・正義です。効果量は、前のレッスンで学んだ統計の用語です。

Q2. 研究の目的や手順、リスクを説明したうえで、参加するかどうかを本人に決めてもらう手続きを何といいますか。
  1. デブリーフィング
  2. インフォームド・コンセント
  3. 交絡変数
答えを見る

正解: 2. インフォームド・コンセント
参加前に説明と同意を得る手続きがインフォームド・コンセントです。

Q3. アメリカでベルモント・レポートが作られる大きなきっかけとなった出来事はどれですか。
  1. タスキギー梅毒研究が発覚したこと
  2. 効果量の計算方法が発見されたこと
  3. 相関係数が発見されたこと
答えを見る

正解: 1. タスキギー梅毒研究が発覚したこと
梅毒にかかった人々を同意なく長期間治療しなかったタスキギー梅毒研究の発覚が、大きなきっかけになりました。

レッスン2-5はここまでです

クイズで迷った問題があれば、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。

第2章 心理学の研究法 のレッスン一覧
  1. 2-1研究法を学ぶ理由
  2. 2-2実験・調査・観察の違い
  3. 2-3相関と因果の違い
  4. 2-4研究結果の読み方
  5. 2-5心理学の研究倫理

講座の目次(全16章)へ