HOME / 日常の心理学 / 心理学用語辞典 / 治療ギャップとは

心の健康

治療ギャップとは

英語: Treatment Gap ・ 更新日 2026-10-03

治療ギャップとは、心の不調を経験している人のうち、必要な治療を実際には受けていない人の割合が高いことのことです。

01治療ギャップをくわしく

「治療ギャップ」という言葉は、2004年にKohn、Saxena、Levav、Saracenoの4名がWHOの機関誌Bulletin of the World Health Organizationに発表した論文で広く知られるようになりました。この論文は世界各国の地域住民対象の疫学調査を集め、各疾患について「症状はあるのに治療を受けていない人」の割合を算出したものです。

その結果、治療ギャップは疾患により差はあるものの全体的に大きく、アルコール関連障害では約78%、全般性不安障害で約58%、うつ病で約56%、双極性障害で約50%が未治療とされました。比較的小さかった統合失調症など非感情性精神病でも約32%、つまり3人に1人程度は治療を受けていませんでした。著者らは、データの乏しい発展途上国の実態をこの数値が過小評価している可能性も指摘しています。

その後の調査でも同様の傾向が繰り返し確認されています。2025年のバングラデシュの調査では、精神疾患があると判定された人のうち実際に医療を受けていたのはおよそ10%にとどまり、治療ギャップは約90%に達しました。嗜癖性障害で約95%、うつ病性障害で約93%と特に高く、背景には偏見や知識不足、経済的制約に加え、専門医の不足や保健予算の少なさといった供給側の課題も関わっているとされます。

これらの結果が示すのは、治療を受けていないことが症状の軽さを意味するとは限らないという点です。重い病気でも治療ギャップが小さいわけではなく、経済状況や制度、スティグマといった社会的要因が治療に結びつくかどうかを左右します。また数値自体も調査対象国や治療の定義によって変動するため、単純な国際比較には注意が必要です。

02身近な例

長く気分の落ち込みや強い不安を感じていても、受診せずに過ごしている人は少なくありません。本人が「大したことではない」と感じていたり、周囲に知られたくないという気持ちが受診をためらわせていたりすることも、治療ギャップの背景にあります。

03講座で学ぶ

治療ギャップは、無料講座「ゼロから学ぶ心理学入門」の次のレッスンで詳しく学べます。

  1. 第16章心の不調で困ったとき、どこに相談すればよいのか

FAQよくある質問

治療ギャップとは何ですか?

心の不調や精神疾患を経験している人のうち、必要な治療を実際には受けていない人の割合が高いことを指す言葉です。2004年のWHOの論文で広く知られるようになりました。

治療ギャップはどのくらい大きいのですか?

疾患や国・調査によって差はありますが、WHOの分析ではうつ病で約56%、アルコール関連障害で約78%が未治療とされ、2025年のバングラデシュの調査では全体で約90%にのぼると報告されています。数値は調査方法や年代によって変わるため、一つの数字だけで判断しないことが大切です。

治療を受けていない人は症状が軽いということですか?

必ずしもそうとは言えません。統合失調症のような重い病気でも一定の治療ギャップがあり、偏見や経済的事情、専門家の不足など社会的な要因が受診を妨げている場合も多いことが研究で示されています。

RELATED同じ分野の用語

学習性無力感汎適応症候群バーンアウト(燃え尽き症候群)認知のゆがみセルフスティグマアンヘドニア

出典

  1. Kohn R, Saxena S, Levav I, Saraceno B (2004). The treatment gap in mental health care. Bulletin of the World Health Organization, 82(11), 858-866.
  2. Huque R, Azad AK, Islam K, Ahmed HU, Amin MR (2025). Mental health care seeking behavior in Bangladesh: determinants and treatment gaps. BMC Psychiatry, 25, 779.

心理学用語辞典の一覧へ(117語)