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感情心理学とは(第10章)

更新日 2026-10-03

感情心理学とは、喜びや怒り、悲しみといった感情が、どのように生まれ、表れ、心や行動に影響するかを研究する心理学の一分野です。少数の基本的な感情で説明する立場と、その限界を指摘する立場があります。

01基本感情理論:少数の感情が生まれつき備わっている

基本感情理論では、怒り・恐怖・悲しみ・喜びなど少数の感情が、生物学的に備わった種に特有の反応として進化してきたと考えられています。

2012年のEmotion Review誌の論文は、基本感情を「種に典型的な行動として表れる主観的な状態(フィーリング)」と定義し、恐怖・怒り・悲しみ・喜び・愛情などが典型的な基本感情として挙げられてきたと説明しています。

同論文は、基本感情が世代を超えて繰り返される生存上の課題に対応するために進化した、生物学的な基盤を持つ反応だと位置づけています。ただし著者らは、感情が生まれつきのものか学習されるものかを単純に分けることはできず、発達は常に遺伝と環境の相互作用(エピジェネティック)によって生じると論じています。

02感情は「フィーリング」だけでなく複数の要素からなる

感情は主観的な感じ方だけでなく、脳の活動や表情・身体の動きなど、複数の要素が組み合わさって成り立っていると考えられています。

2009年のAnnual Review of Psychology誌の論文は、感情を単一の現象ではなく、神経生物学的な活動の一段階として経験される「感情フィーリング」と、脳幹・扁桃体・島皮質・前帯状皮質・眼窩前頭皮質などの活動という神経生物学的な基盤、そして表情や身体の動きといった行動表出が組み合わさった複合的な現象として捉えています。

同論文は、感情フィーリングが「感情の重要な心理的要素であり、感情と意識の進化に中核的な役割を果たす」と述べ、基本感情と、学習された感情・認知の結びつき(エモーション・スキーマ)を区別することの重要性を論じています。

03日常の複雑な感情は、基本感情だけでは説明しきれない

日常生活の感情は、怒りや恐怖といった基本感情のラベルだけでは十分に説明できないことが、実際の感情体験を調べた研究で示されています。

2023年のScientific Reports誌の論文は、114名を対象に、エクマンの6つの基本感情(幸福・悲しみ・怒り・嫌悪・驚き・恐怖)のラベルで、実生活で経験した感情をどこまで説明できるかを調べました。その結果、感情を言葉で読み取りにくい傾向(アレキシサイミア)が低い人ほど、基本感情のラベルではなく「その他」のカテゴリーを選ぶ割合が高くなりました。

同論文は、この結果から、日常生活の複雑な感情状況を説明するには、エクマンの6つの基本感情モデルだけでは不十分だと結論しています。感情心理学では、少数の基本感情で説明する立場と、実際の感情体験はもっと多様で構成的だという立場の間で、現在も議論が続いています。

04感情研究には今も答えの出ていない問題がある

感情がどのように意識と結びつくのか、感情と認知がどう影響し合うのかなど、感情心理学には今も答えの出ていない問いが残っています。

先の2009年の論文は、感情研究の未解決の課題として、はっきり意識される経験と、意識にのぼらないまま行動に影響する過程との関係をどう理解するか、「無意識」という概念をどう捉え直すかといった問題を挙げています。

同論文は、こうした問いが感情と意識の関係を理解するうえで重要であり、今後の研究でさらに検討していく必要があると述べています。感情心理学は、完成した理論ではなく、現在も活発に議論が続いている分野だといえます。

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KEYWORDS関連する用語

デュシェンヌ・スマイル感情の要素モデル

FAQよくある質問

基本感情理論とは何ですか?

怒り・恐怖・悲しみ・喜びなど少数の感情が、生物学的に備わった種に特有の反応として進化してきたと考える理論です。

感情は生まれつきのものですか、学習されるものですか?

どちらか一方に決めることはできません。2012年の論文は、感情の発達が遺伝と環境の相互作用によって生じると論じています。

基本感情モデルには限界がありますか?

あります。2023年の研究では、エクマンの6つの基本感情のラベルだけでは、実生活で経験する複雑な感情を十分に説明できないことが示されています。

出典

  1. Mason & Capitanio (2012). Basic Emotions: A Reconstruction. Emotion Review, 4(3), 238-244.
  2. Izard (2009). Emotion Theory and Research: Highlights, Unanswered Questions, and Emerging Issues. Annual Review of Psychology, 60, 1-25.
  3. Coppini, Lucifora, Vicario & Gangemi (2023). Experiments on real-life emotions challenge Ekman's model. Scientific Reports, 13, 9511.

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