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心理学の分野健康心理学とは(第14章)
更新日 2026-10-03
健康心理学とは、心と体の健康やストレスへの対処を心理学の視点から研究する分野です。病気を生物学的要因だけでなく心理・社会的要因も含めて理解する「生物心理社会モデル」が土台になっています。
01病気を「生物学的な異常」だけで説明する生物医学モデルの限界
従来の医療を支配していた生物医学モデルは、病気を測定可能な生物学的変数からのずれだけで説明しようとし、心理的・社会的な側面を扱う余地がなかった。
Lindau等(2003)によれば、精神科医ジョージ・エンゲルは1977年、こうした生物医学モデルのあり方に異議を唱えた。生物医学モデルは病気を「測定可能な生物学的変数からのずれ」だけで説明しようとする立場であり、心理的・社会的な側面を扱う理論的な枠組みを持たない。
しかし実際の臨床では、医師は貧困・認知機能の低下・介護者の負担など、生物学だけでは説明できない問題に日常的に向き合う。エンゲルは、こうした見過ごされてきた要因を医学の理解と実践に統合する必要があると考え、生物心理社会モデルを提唱した。
02生物心理社会モデルの考え方
生物心理社会モデルは、健康を生物学的要因だけでなく、心理的・社会的要因を含む複雑なネットワークとして理解し、病気の有無だけでなく健康そのものを積極的にとらえる立場である。
Lindau等(2003)は、生物医学モデルが単一の根本原因を求め、死亡率や罹患率で成果を測るのに対し、相互作用的な生物心理社会モデル(IBM)は「健康は身体的・生物学的・環境的・経済的・社会的・文化的な要因が絡み合った複雑なネットワークに依存する」と強調する点が異なると説明している。
同モデルは、健康を単に病気がない状態としてではなく積極的な状態としてとらえ、要因どうしの双方向の関係に注目し、個人だけでなくパートナーや社会的なネットワークも健康の分析に含める。これは、病気を中心にした考え方から、生涯を通じた健康の維持を理解する考え方への転換を意味する。
03生物心理社会モデルは実際にどこまで使われているか
生物心理社会モデルは理論として広く受け入れられてきた一方で、実際の臨床や研究では、依然として生物学的な側面に偏っているという指摘もある。
Benning(2015)は、1992年のアメリカ精神医学関連の主要な学会での発表のうち86%が生物医学的な側面に偏っていたという調査結果を紹介し、生物心理社会モデルが提唱されたにもかかわらず、臨床現場での実践への影響は限られていると指摘している。同論文によれば、2002〜2006年のAmerican Journal of Psychiatry誌の掲載論文も生物医学モデルが優勢で、1967〜1971年には生物医学的な視点と社会的な視点がより均等に扱われていたという対比も示されている。
健康心理学の分野でも、ある主要な学術誌の論文の94%が社会文化的な要因を扱っていなかったという調査結果が紹介されている。Benning(2015)はさらに、エンゲルが理論の土台とした一般システム理論を忠実に反映していないという哲学的な一貫性への批判も取り上げており、生物心理社会モデルには理論・実践の両面で課題が残ると論じている。
04ストレスへの対処も健康心理学の中心テーマ
健康心理学では、ストレスを体の反応としてとらえるセリエの考え方に加え、本人がストレッサーをどう評価するかに注目するラザルスとフォルクマンの理論が重視されている。
Rochette等(2023)によれば、ハンス・セリエはストレスを「体に向けられたどのような要求に対しても生じる、非特異的な反応」と定義した。セリエが示した汎適応症候群は、警告反応期(6〜48時間、防御の動員)、抵抗期(48時間以降、ストレッサーへの適応)、疲弱期(諸機能の低下)という3段階からなる。
一方、Obbarius等(2021)が検証したラザルスとフォルクマンの理論では、ストレッサーの影響は、その状況が自分に関係するかを評価する「一次評価」と、対処できる資源があるかを評価する「二次評価」を経てストレス反応につながるとされる。心身症の入院患者2,216人のデータを使った構造方程式モデリングでは、知覚されたストレッサーと個人の資源で、ストレス反応の分散の91%が説明され、資源の保護的な効果(β=-0.73)はストレッサーそのものの影響(β=0.34)より大きかった。
同研究では、このストレス反応がさらに抑うつの分散の63%を説明していた。これは、同じ出来事でも、本人が使える資源をどれだけ持っているかによって、ストレスの受け方や、その後の心身の健康への影響が大きく変わることを示している。
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FAQよくある質問
健康心理学とは何を研究する分野ですか?
健康心理学とは、心と体の健康やストレスへの対処を心理学の視点から研究する分野です。病気を生物学的要因だけでなく心理・社会的要因も含めて理解する「生物心理社会モデル」が土台になっています。
生物心理社会モデルとはどんな考え方ですか?
Lindau等(2003)によれば、1977年にジョージ・エンゲルが提唱した考え方で、健康を生物学的要因だけでなく心理的・社会的要因が絡み合った複雑なネットワークとしてとらえ、病気の有無だけでなく健康そのものを積極的に理解しようとする立場です。ただしBenning(2015)が指摘するように、実際の臨床や研究では生物学的な側面に偏りがちだという課題も残っています。
ストレスの影響は誰にとっても同じですか?
いいえ。Obbarius等(2021)の研究では、ストレッサーの影響は、本人がその状況をどう評価するか、対処できる資源をどれだけ持っていると感じるかによって変わるとされています。同じ研究では、資源の保護的な効果(β=-0.73)がストレッサーそのものの影響(β=0.34)より大きいことも示されました。
出典
- Lindau, S. T., Laumann, E. O., Levinson, W., & Waite, L. J. (2003). Synthesis of Scientific Disciplines in Pursuit of Health: The Interactive Biopsychosocial Model. Perspectives in Biology and Medicine, 46(3 Suppl), S74-S86.
- Benning, T. B. (2015). Limitations of the biopsychosocial model in psychiatry. Advances in Medical Education and Practice, 6, 347-352.
- Rochette, L., Dogon, G., & Vergely, C. (2023). Stress: Eight Decades after Its Definition by Hans Selye: "Stress Is the Spice of Life". Brain Sciences, 13(2), 310.
- Obbarius, N., Fischer, F., Liegl, G., Obbarius, A., & Rose, M. (2021). A Modified Version of the Transactional Stress Concept According to Lazarus and Folkman Was Confirmed in a Psychosomatic Inpatient Sample. Frontiers in Psychology, 12, 584333.
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